ワ・ライラ・ストーリー

兎波志朗

第1話 とある夏休みの出来事


「「うぁぁぁぁ!」」


光が微かに差し込む森の中で僕らは全力で逃げていた。

え?何から逃げているかって?


僕は振り返りながらそれを確認する。

それは普段飼育小屋にいるウサギの10倍くらいの大きさで、頭には立派な角が生えている。

そしてその角はとんでもなく鋭利になっていて、太い木を切り倒し僕らに向かってくる。

ちなみに僕らとは、僕と一緒にウサギから逃げている存在がいる。

その存在とは服を着て二足歩行で一緒に逃げているブラウン色の猫。しかも半泣きで。


なんでこんなことになったんだろう?

僕はこうなる少し前を逃げながら振り返る。



「こっから飛べたら最強!飛べなきゃ雑魚な!」


夏休みになり僕を含めた上港小5年の中で、仲の良い5人組は学校の近くの磯に遊びに来ていた。


そして炎天下の中、そんな物騒なことを言うアツシに連れられ磯の中でも最も高い岩場に僕、大佐賀アスムとヒロトはやってきた。


「高っ!こんなところから飛べないよぜったい!三階くらいの高さじゃん!」


「ビビんなよヒロト!こんなところヨユーだからヨユー!」


ビビるヒロトにヨユーだよと言い放つアツシ、5人の中で一番背が高くて度胸もあるアツシなら確かに余裕で飛べると思う、しかしわざわざ僕らを呼んだのには理由があった。


「ヨユーじゃねーよ、てか俺たちのこと連れてきたのどうせサキちゃんに良いカッコ見せたいだけだろ?」


「はぁ?そんなわけねーじゃん!」


ヒロトからの反撃に動揺しながらも否定しているが、僕もそう思う。


「ヒロトの言うとおりだよ!だからサキとマナちゃんは下で待たせてるんだろ!カッコいいとこ見せたいから!」


「はぁ?アスムまで何言ってんだよ?そんなわけ無いだろ?あいつら来たら変に止めてきそうだったからだよ!ほらさっさと飛ぼうぜ!」


普段強気のアツシも好きな子の話には同様を隠せないみたいだ、アツシの額の汗はこの岩場の灼熱な暑さだけじゃないのを、僕もヒロトも知っている。


「てか、いいカッコ見せたいならチャンスだぜヒロトも!マナ勇気ある男子が好きってこの前言ってたぜ!?」


「マジ!?マナちゃん言ってたの!?」


「マジだよ、マジ」


そう言いアツシは下から上の様子を伺っている茶色髪を揺らすマナちゃんを指さす。

ヒロトは勇気ある男子好きなのか~っと、葛藤を初めているが多分アツシの嘘だと思う、あのたれ目でいつも眠たそうで、僕らより上にいるトンビを観ながら首を揺らしている不思議ちゃんが勇気ある男子好きって言うのか?


もし、仮に言うとすればマナちゃんの隣で危ないから降りてきなって今も叫んでいるサキの方だと思う


黒髪ショートカットでクッキリ二重が印象のサキだが、見た目とは裏腹に幼稚園の頃から空手を習いこの前も大会に出ていた、勇気のある男子を求めているならサキに決まっている。


僕がそんなことを思っていると


ザッパーン!×2


二つの飛び込み音が


嘘だろ…?


なんとアツシと、そそのかされたヒロトが飛び込んでいた。


「プッハー!オーイ!俺もヒロトも飛んだぜ!?早く来いよ!」


絶望だ、まさかヒロトも飛ぶなんて、好きな子に良いカッコ見せるパワーってすごい…


1人取り残されビビりまくる僕。

あおるヒロトとアツシ、飛ぶなというサキ、を見てるマナちゃん。

そんな絶対絶命の時。


「コラー!お前たち何をやってんだ!?」


地元の磯の安全を見回る会のおじさんが現れ…僕らは捕まった。



「あーあ、アスムが下にいたら逃げられたのによ~」


飛び込むことができなかった僕のせいでアツシたちも逃げることが出来ず、僕らはあの後おじさんに捕まりたっぷり怒られた。


「アスムが度胸あればな~大体この前の理科の実験の時もさ~…」


「ごめん…」


夏休み早々とんでもなくカッコ悪い姿をみせてしまった。

怒られて時間も遅くなり今日はもう帰ることになった、帰り路はアツシの僕の普段カッコ悪かった話しをされテンションはガタ落ちだ。


僕の家は山の上の方なので街側のみんなとはここでバイバイをする。

あー最悪の日だ。


そんな感じで項垂れているとサキが振り返ってきた。


「ねぇアスム?あんまり気にしなくていいと思うよ?」


「フォローありがと…」


「フォローじゃないよ、アスム、本当の勇気って高いところから飛び込むことじゃないと思うよ!」


「本当の勇気?」


「そ、本当の勇気!飛び込むなんて危ないだけで勇気なんてもんじゃないよ!」


フォローで言っているのかと思ったらサキは僕を真っすぐな目で見ている、どうやら嘘ではないようだけど本当の勇気?


「はぁ?本当の勇気ってなんだよ?俺とヒロトの方が勇気あんじゃん!」


先頭を歩いていたアツシも疑問に思ったようでサキに突っかかる。


「違うね、あんなの危ないだけじゃんねーマナ?」


「そうだねー」


「え?マナちゃんもそう思ってるの?え?俺飛び損!?」


「?。そうだよー」


「そんなー!」


結局最終的には僕より項垂れているヒロトを見送り僕はみんなと別れた。

サキに言われただけで僕はさっきより元気になっていることにサキの後ろ姿を見を送りながら気が付いた。

クラスではアツシ以外にもサキのことが好きな男子はいる、いやクラスだけじゃなく学年、学校…

そんなサキを僕も気づけば好きになっていた。






本当の勇気か、サキはああ言ったけどやっぱり僕より二人のほうがあると思うんだよなー

いつかサキが危険な目にあったら僕は2人より先に足が出るのかな?…うーーん。


しばらく歩きながらそんなことをグルグル思っていると。



ガサガサッ


目の前の茂みから何やら生き物が歩いてる音がしたかと思うと、茂みから出てきたのは。


二足歩行の服を着た猫だった。


そしてこれが今現在一緒に逃げている猫、ヤ・プードゥとの出会いだった。

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