第15話
ユージたちは再び焚き火の周りに集まって座っていた。
エンジェルとの交戦があったせいで、ひりついた空気につつまれていた。
ユージは焚き火に目が慣らされないよう、地面や森を見るようにし、また戦闘がはじまっても応戦できるようにしていた。そこでシンヤはうんざりと言った。
「なんだよあれはよー。消えちまったよな」
ユキナは答えた。
「ほんまや。あたしが突きこんだら、幽霊みたいに、ふわって」
「なるほどな。もしかして、透明になったのかもしれねえな」
「なんやて?」
「ああ。おれの魔法に、透明になれるやつがあるんだけどよー」
「え? そんなんあんの?」
「まあな。それと同じ原理かはわからねえけど。ヒントになるかもしれねえ。おれの方でもうちょい考えとくよ。……とにかく、いつまた襲ってくるかもわからねえ。対策できるまで、交代で見張るなりしようぜ」
「せやな。それにしても、もうちょい、しっかり見とくべきやったな」
「なんだって?」
「もっと観察したら、手がかりがあったかもしれへん。そういうこと。うちの流派やと、『目付け』いうて、相手を観察して、勝ち筋を考えるんが極意なんや。……お父はんの受け売りやけど」
するとこんどはレイカの声がした。
「目付け。そんな言葉を、ヘヴン・クラウドで聞くなんて」
「しっとんの?」
「ええ」
「なるほど、じぶんも、なかなか使いよるみたいやしなァ」
「わたしなら、仕留めていた」
「ん、なんて?」
「さきほどの、あの優勢から敵を取り逃がすのは、目付け以前に、心の甘さが問題だと思う」
「ほう、なかなか言うやんか。ご忠告、おおきに。ほならひとつ、手本を見せてくれへんかなァ」
そう言ってユキナは立ち上がった。レイカは視線を外したまま、
「そうしてすぐに熱くなるから、脇が甘くなる。気勢が乱れ、重心が上がる」
そこでシンヤは割って入った。
「ちょ、ちょっと待てって。あんたら、仲間割れしてる場合じゃねえだろ。そうだ、鍋、あっためなおそうぜ」
しばらくはそんな様子が続いていたが、エンジェルは再来せず、次第に落ち着いた空気が戻ってきた。
そんなとき、ふいにミオが言った。
「あの。みなさん」
周囲の視線が集まると、ミオは黙りこみそうになった。しかしユキナが、
「なんや。言うてみい」
とうながすと、ミオはうなずいた。
「みなさん。……ありがとうございました。さっきは、助けてくれて」
「ええよ。みんな、エンジェルを狩るいうことに、目的が一致しとるわけやし」
「そうですか。……でも、ほんとうに、感謝しているんです。こんな、わたしみたいな、ゴーストのために」
「関係あらへん。ゴーストいうても、心は人間や。そうやんな?」
そう言ってユキナはまっすぐな眼でミオを見た。ユージはそう言い切れるユキナをうらやましく思った。
その後、ミオをテントの中で休ませ、二人ずつ交代で見張りをすることにした。
ユージはユキナと焚き火に向かい、並んで座っていた。
レイカとシンヤはテントの中に入っていった。ユージは、彼らをミオへ近づけることに不安を抱いたが、ミオをひとりでいさせるよりはマシだと思った。
ユキナは焚き火に枯れ枝を放りこみながら言った。
「カメラ、持ってへんの?」
「そうだな。リーグのときは、主催者側が用意したカメラが撮影するし、それ以外に、使うことがないから」
「そっか。さっきも言うたけど、配信せな、せっかくエンジェルを倒しても、
すると、ユキナはポーチから銀色の球体を取り出した。
「あたしは予備あるから。これ、使うたらええ」
「ありがとう。……でもいいんだ。おれは」
「悪い仕事やないで。ルクスハンターも」
「だろうな。わかってる。でも、少し考えたいんだ」
「注目されて、稼げるで、ルクスハンターは。みんな、戦いを観たがっとるんや」
「戦いを観たがってる?」
「せやで。ヘヴン・クラウドの中にはラクしかあらへんやろ。人間はラクを突き詰めたあげく、しまいに刺激がのうなって、退屈しとるわけや。せやから、娯楽としての戦いを求める。それが、刺激的であるほど、暴力的であるほど、そそるんやろ」
「そうかな。まあ、わからなくもないけど」
「うん……。ユージみたいな、自分で戦うてる勝者には想像もつかんやろな。でも、そんなもんや。観客はどんどん残酷になる。血を求める。欲望に際限なしや。あたしは、ときどき、恐ろしゅうなる。敵を残酷に倒すと、フォロワーからの投げ銭が増えよる。せやけど、そういう戦いは、わざととちゃう。戦いの中で、やむを得ず、残酷な終わりになってまう。いや、見世物にしとる時点で、大差はないんやけど」
「相手は、無感情なAIだろ? それに、魔物だとか」
「せやけどな、戦いいうんは、会話するみたいやろ。なんか、相手の気持ちがわかるっちゅうか。作り物やとしても。せやから、あたしは……」
「大丈夫か? なあ、ルクスハンターを、おれに勧めているんだろ?」
「せやな。いろいろあるけど、とにかく、
ユキナはそう言ってから、さみしげな笑顔を見せた。
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