094 お友達、鬱憤晴らしの魔物狩り、異変?




 ちなみに、王女様の風格ある喋り方は育て親がお祖母様だかららしい。

 実際には乳母が育てるんだろうけど、一緒に暮らしていたのは陛下の実母である王太后。なんでも有名な方らしい。ものすごく、しっかりしてらっしゃるのだとか。夫である前王はあんまりお仕事できない方だったみたいだね。


「あの、どうしてご両親と暮らしてなかったの?」


 聞いてもいいのか迷ったけど、話を振ったのは王女様だ。いいよね?

 王女様も特に気にした様子もなく教えてくれた。


「元々、王族の家族関係は希薄だぞ。それに加えて、我が母は長男にしか興味がない。父上は女親の愛情を得られないのは憐れだと思ったようだ。王太后様も快諾された」

「へぇぇ」

「わたくしは『普通の家族』とやらは知らぬが、アイナと出会ってから少しは分かるようになったのだ。友人候補にアイナがいたことは僥倖であった」

「アイナ様、良い子ですもんね」

「うむ」


 王女様がしっかりしているのは王太后やアイナ様のおかげなんだな。

 親はまあ、仕方ない。選べないもんね。


「そのアイナが、お主を殊の外褒めておった。妬けたぞ?」

「あはは」

「だが、こうして話をして理解した。お主は正しくアイナの友人だ」

「はい」

「となると、わたくしとも友人になれるな?」

「はい?」

「名を呼ぶ栄誉を与えようぞ。わたくしの名はヴェルナだ」


 王女様はニヤニヤ笑いながら二度目の名乗りをしてくれた。

 名前を呼ぶまで居座るぞって顔。

 仕方なく、僕は女性騎士の鋭い視線にヒヤヒヤしながら小声で「ヴェルナ様」と呼んだってわけ。




 矛先を変える云々と言ってた王女様、もといヴェルナ様だけど、結果としてセルディオ国側にはバレなかった。皆でテントを守っていたし、入り込むのは至難の業だ。

 偶然を装って近付くのも不自然すぎる。なにしろ今は町長の家にいるんだもんね。広場まで来るには理由がなさすぎる。

 第一、天族が欲しいからって他国の領土で無茶はできない。それをやると戦争だ。

 だからやっぱり何か仕掛けるとしたら国境だよ。

 警戒は必要とはいえ、今は全力じゃなくてもいい。


「だからって、魔物狩りにお前が出てもいいのかよ」

「シルニオ班長が許可してくれたもーん。それにヴァロがいるじゃん」

「そりゃそうだが」

「前に練習した連携攻撃をやろうよ」

「おっ、そうだな!」


 町を出て割とすぐ。魔物が急に増えた。さすがは人の少ない地域だ。街道も整備不良でさ、魔物が暴れたんだろうなって跡もあった。最初は追い払うなり馬車を急がせるなりしていたけれど、そうもいかなくなってきた。

 で、体を動かさない日々が続いていた僕はシルニオ班長に訴えた。無理、しんどい、動きたい。サヴェラ副班長は額を押さえていたけれど、シルニオ班長は笑って許可を出した。

 セリアの護衛はユッカ先輩たちと交代。サヴェラ副班長も一緒に残ってくれたため、セリアは顔見知りがいることにホッとしていた。


 騎鳥に乗る騎士が欠けた分を、僕とヴァロが担う。

 シルニオ班長やヨニ先輩は本隊の護衛だからね。上空の警戒は大事なお仕事なのだ。

 お姉さん方は残った。僕がヴェルナ様と仲良くなった(?)のと前後して、女性騎士に耳打ちされたみたい。それとなく護衛してる。

 魔物担当の騎士たちは、最初は人員が減ったと嘆いていた。でも、ほら、僕が来ましたからね。ふふーん。


「すっげ、助かった!」

「カナリア、ありがとうな」


 と、低空飛行で駆け抜けていく僕に感謝を伝える。

 なんてったって、僕ときたら誰よりも上手に騎鳥を操れるからね。騎獣隊では死角になって見えない部分や、手の回らない箇所に逸早く気付いて対処ができる。これが騎鳥乗りの強みだ。

 父さんの作った魔道具も活躍してるよ。爆風で追い込むのだ。

 でも一番活躍してるのはチロロ。


「ちゅんちゅん!」

「分かるー! 久しぶりに動けて楽しーねー!」


 あははははって笑いながら飛び回っていたら、地上で同僚たちが「ヤベぇな」って言ってるのが聞こえた。

 ヴァロは僕ほど騎乗が上手じゃないので、最初に練習がてら連携攻撃をしたあとは地上部隊のフォローに回った。それが不満だったんだろうな。騎士たちと一緒になって「あいつ、やりたい放題だな」と聞こえるように言う。


「ヴァロだってそうじゃん!」

「俺も空から急降下攻撃やりてぇんだよ!」

「それはダメー」


 アドにはまだ早い。ヴァロは僕より体重があるからね。小さな体格のアドはチロロ以上に訓練が必要なんだ。地上すれすれから再浮上するのは思った以上に難しい。墜落したら終わり。訓練は安全にやらないとね。


「くそー! 帰ったら特訓するぞ。付き合えよ?」

「分かったー。あ、右方向から鰐型が追加で来てる。ていうか、なんでこんなに多いんだろうね」

「知らねぇよ。おい、皆で網を張るぞ!」


 ヴァロは騎士とも仲良くなって、なんだかんだで連携が上手くなってる。網を張って足止めするのも素早かった。


「よっしゃ、倒したぞ!」

「こっちもフォーゲルシュッペをやったぞ。一部は森に追い返した」


 騎士は魔物を正式名で話す人が多い。学校で習ったからかな。僕やヴァロは鰐や小鳥鱗って呼んでる。あ、鱗鳥とも呼ぶな。自由で好き勝手なところが傭兵らしい。


「カナリア、どうだー? 他にいるか?」

「いないよー。一応、ぐるっと見回ってくる。チロロ、旋回して」

「ちゅん!」


 久しぶりに高く飛んだせいかチロロが興奮してる。ウキウキ飛んでるのが可愛い。

 最近は宿に泊まってたし、テント泊になってからも遊べてなかった。

 僕はごめんねって意味を込めてチロロの後頭部を撫でた。


「み!」

「どしたの、ニーチェ」


 ニーチェが襟巻きを止めて、チロロの頭部に飛び移った。何が気になるのか、キョロキョロとあちこちに視線を向ける。でも分からなかったらしい。首を傾げて振り返った。


「みぃ」

「変な感じがしたの? なんだろうねぇ。確かに魔物の動きは変だったけど」

「みみ」

「違う? うーん、なんだろ。また気付いたら探そうか。今は魔物の方が大事だよ」


 優しく諭すと、ニーチェは胸を張った。チロロと一緒に頑張って探すらしい。

 その頼もしくも可愛い様子に、僕はニヨニヨ笑った。



 魔物の姿が見えなくなったので街道沿いにある野営用広場に向かう。

 馬車の一行は先に進んでいたからね。

 合流しようと急げば、もう野営の準備を始めていた。この先に良い場所がないからだ。

 ところが、近付くにつれて野営地の様子がおかしい。

 上から見るとよく分かるんだよな。僕はすぐに降下せず、上空を旋回した。

 ヴァロたちは別ルートから戻ってる。周辺パトロールだ。さっきの魔物たちが妙に連携取れすぎていたのが気になった。

 僕は空なら無敵だから、一人で先に帰投。

 そこで様子を観察していると、段々と分かってきた。


「あいつら、捕虜の馬車に近付こうとしてるのかぁ」

「ちゅん?」

「チロロ、急降下しよう」

「ちゅん!」


 僕とチロロは揉めているド真ん中に突っ込んだ。慌てたのはセルディオ国の兵士や護衛たちだ。何事だと言わんばかりに飛び退いた。そして全員が剣を抜くんだからどういうことだよね。

 ていうか、実は半数が先に抜いていた。上空からだとバッチリしっかり見えるんだからな。


「敵襲だ!」

「我々の民を守れ!」


 大根役者よりひどい棒読みで叫ぶから、僕も大声を出した。


「襲撃を受けていたのは『アルニオ国の馬車』だった!」

「なっ――」

「上空から見ているとよく分かるんだよ! 前の人に隠れて、後ろの人たちが剣を抜いていた」


 言い返そうとする相手の言葉に被せて続ける。

 捕虜の護衛をしていた兵士や集まってきた騎士が驚いた。どういうことだとセルディオ側を睨み付ける。

 そこに、遠回りコースでパトロールしてきたヴァロたちが戻ってきた。つまり、こっち側の人員が増えたってこと。

 セルディオ側は分が悪いと悟ったんだろう。チッと舌打ちして剣を下ろした。


 うちの外交官のトップ、カイラさんもやってくる。プリプリ怒っててどうしたのかと思えば、理由を語った。


「打ち合わせをしたいと突然言い出したのは、わたしの足止めだったのでしょうか?」


 あ、めっちゃ怒ってる。そりゃそうだよね。


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