031 救助優先、追跡と魔物乱闘と能力




 階段は思ったほど続かず、たぶん建物一階建て分ぐらい進んだかな。階段が終わると通路は横に延びている。屈まなくても歩けるぐらいの高さだ。がたいの良い男なら頭を打つぐらい。

 ホルンベーアはかなりギリギリだったんじゃないかな。いくら四つん這いで駆けるとしても、体が大きいから走り抜けるのは無理だ。シュヴァーンも厳しい気がする。

 だとしたら、まだ大丈夫。追いつける。

 幸い、チロロは小さい。僕は床にいたニーチェを拾って首に巻き、通路を走った。


 途中、分かれ道もあったけれど追跡魔法があれば迷うことはない。

 この地下通路はどうやら昔の防空壕的なものだ。時々、瓶や麻袋が置いてあって、貯蔵庫代わりに使っていたような感じ。中身は入っていない。今は誰も使っていないのかな。

 気になるけれど、そういう疑問は後回し。きっと行政がなんとかしてくれる。今はスルーだ。


 体感的に「結構走ってるぞ」と思った頃に、土っぽい匂いがしてきた。水に濡れた土の匂いだ。

 町では嗅がない匂い。これは王都を出たかもな。

 案の定、出口らしき扉の隙間から外を覗くと、木々が見えた。整備された公園にはない、野放図に育った景色だ。


 森は、王都の周りにだってある。もちろん直接は接していない。いくら手を入れていても魔物が蔓延るかもしれないと思うと怖いからだ。

 森は恵みも与えてくれるから、なくてはならないものだと思う。だけど、近くにあればあったで害も及ぼす。

 確かに王都の周辺にある森は巡回が頻繁だと聞く。とはいえ、いくら定期的に人が巡回していようと魔物が住み着いたらあっという間だ。

 それに人のすること、見逃しがないとは言い切れない。


 まあ、見逃されているからこそ、こういう通路があるんだよ。

 僕はそうっと扉を開けて外に出た。


「ここは北の森だよねぇ。僕が通ってきた街道沿いの林と違って手入れが雑に見える。役所の人って二重チェックとかしないのかな」

「ちゅん」

「魔物、いる気がしない?」

「ちゅん!」


 どこが担当しているのか知らないけれど、これ、本気でヤバい気がするぞ。

 こういうのを放置しているから盗賊が使うんだ。全く!


「それよりシュヴァーンだ。チロロ、上空から偵察してきて」

「ちゅん!」


 僕はもう一度【追跡】と【身体強化】を掛けて森に分け入った。



 敵は、割とすぐに見付かった。

 なんと魔物に襲われていたのだ。ギャーギャーキーキーと魔物特有の鳴き声に、恐れる人間の「うわーっ」という声で簡単に場所が特定できた。


 駆け付けた時にはもう大乱闘中だった。

 魔物は、鶏と似た形で、少し大きな恐竜っぽい奴。正式名はフォーゲルシュッペだったかなぁ。父さんの図鑑には小鳥鱗と書いてあった。


「あー、ホルンベーアが興奮しすぎて空振りしてる。全然倒せてないじゃん」


 体の大きさや獰猛さの割には勝率が低いという……。なんだあれ。うちのチロロの方が確実に倒せるぞ。

 仕方ないので加勢する。


「【混乱】【転倒】【捕獲】っと。最後に【拘束】」


 捕獲はあくまでも生け捕りにするだけで、拘束ほど強い魔法じゃない。

 こういう小型のよく動く残忍なタイプの魔物は、間に動きを止める魔法を入れておかないと拘束魔法が効かないんだ。人間を捕まえる方がよほど楽。

 しかもこいつらときたら連携を取るんだ。

 僕の死角を狙って後ろから襲ってくる。


「みっ!」


 ニーチェが危険だと教えてくれたけど、実はもう分かっていた。母さんに死ぬほど教え込まれたから、気配を探るのは得意なんだ。でもありがとう。

 指示棒を伸ばして薙ぎ払う。


「よしっ、一匹終わり。【拘束】。ニーチェ、ありがとうね」

「み!」


 僕という応援があったおかげで、魔物の襲撃は収まった。というか魔物全滅。

 だけど人間たちには散々だった模様。

 死亡者はいないものの、息も絶え絶えといった様子だ。

 その方がいいかな。これ以上、戦うのも面倒だから。

 あと、興奮して走り回っているホルンベーアがちょっとね。

 調教されない騎獣って、あんな感じなんだな~。

 アウェスの調教にも手間は掛かるというけれど、強い獣を指揮下に置くというのは難しい。


「とりあえず、ホルンベーアは【沈静】。うわ、掛かりが悪いな。もう一回【沈静】。倒れたらごめんね」

「グアァァ」


 ズサーッと滑るように倒れ込んだけれど、ホルンベーアはようやく落ち着いた。急な眠気に襲われたみたいで、その場に座り込む。

 問題は、怯えて木の陰にいたシュヴァーンだ。


「おいで、もう大丈夫だよ。怪我をしたなら治してあげるからさ」

「ジャッ……」


 人間に怯えてるんだ。その視線の先に気付いて振り返ると、ボロボロの男たちが起き上がるところだった。シュヴァーンは彼等を見て怯えている。


「君を助けてあげたいんだ。僕はあいつらとは違うよ? と言っても、分からないか。チロロだと話が通じるんだけどなぁ。他の子の場合は雰囲気で理解してるとこあるし、無理か――」

「ジャッ」

「み。み!」

「ジャッ、ジャジャッ、ジャッ」

「みみ。み、み。みっ!」


 なんか会話してる?

 その様子を「可愛い~」と見ていたら、どうも本当に会話してるみたい。

 みたいというより、会話が分かる・・・・・・


「え、なんでこんな、鮮明に言葉が分かるんだ?」

「み!」


 ニーチェがドヤ顔で(たぶん)僕を見た。

 もしかしてニーチェが通訳してくれた?

 いやでも、通訳というより言葉が普通に分かる。


 ニーチェが「あのちと、わるいのやつ?」と聞いて、シュヴァーンは「悪い奴。無理矢理、縄を掛けられた」と答えたんだよ。

 すごく、はっきりと。

 僕がチロロとニュアンス会話してるのよりずっと、ちゃんとした言葉だった。


 えっ、ニーチェ、何ものなんだ。すごくない?

 それより何より、子供みたいな喋り方がめっちゃ可愛いんだけど!


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