016 お昼寝後の再会と愚痴とさりげない問いかけ




 サヴェラ副班長はニコを甚振るかの如く「あなたの目は節穴ですか」と続ける。こわ。ニコは再起不能っぽい。

 シルニオ班長が苦笑いで間に入った。僕に向かって軽く頭を下げる。


「騎士が失礼な発言をして申し訳ない。ただ、君が男の子だろうと、やはり外でのテント泊は危険だと引き留めていただろう」

「はい。皆さん、良い人です。大丈夫、夕方には戻ります。あ、逃げないですよ? ここで聴取の約束を反故にしたら後々の王都暮らしに支障を来しそう」


 こわーいサヴェラ副班長にもバッチリ顔を覚えられてるみたいだし、逃げることで変に疑われるのも嫌じゃんね。

 まあ、広い王都で会うとは思えないけどさ。

 協力すると約束したのだから戻ってきます。だからお願い。そろそろ解放して!

 眠いんだよ……。

 という心の声が通じたのか、その後すぐに僕は解放された。




 やっぱり、お昼寝最高だよね!

 スッキリした頭で戻ってきた。父さんのテントは回復機能も付いているから、おかげでチロロもニーチェも元気いっぱいだ。

 夕方なのに僕らは足取りも軽く宿にやってきた。美味しいものを食べさせてくれるみたいだから嬉しい。その前に聴取かな。

 厄介なのがいたら回れ右しよう。扉を開けながら考えていると、最初に現れたのはニコだった。なんと待っていてくれたらしい。


「ちゃんと眠れたか~?」

「うん。ニコこそ」

「俺も途中で寝たよ。シルニオ班長はそういうところ、優しいからさ」

「あれ? ニコってフルメ班の人じゃなかったっけ」

「よく覚えてんな。そうだよ。あー。『そうだった』になるのか」


 過去形だ。僕は酸っぱい実を食べた時みたいな顔になった。恐る恐る聞いてみる。


「もしかして?」

「おー。想像通りだぜ。追い出された。しかも奴等ときたら早々に宿を引き払って出ていったんだぜ。まだ仕上がってない書きかけの報告書を奪ってさ。自分たちの連れてきた従者の馬車も手配しないし、盗賊も置いていくしで、もう最悪」


 そこまで内情をあけすけに話していいのかな。ニコの情報管理が不安になる。

 少しの間とはいえ一緒にいたから僕に仲間意識があるのかもしれないけどさ。

 だけど助かる情報だった。あの人、なんか情緒ヤバそうだったもん。絡まれたくなかったから、いなくなってて良かった。


 ニコはひとしきり愚痴を吐き出すと、宿に併設されたレストランに案内してくれた。

 シルニオ班長とサヴェラ副班長が座っている。テーブルの上には飲み物しか置いてなかった。あと書類。待っている間に仕事をしていたのかな。お疲れ様です。

 何気にブラックだよね。騎士って大変な仕事だ~。


「よく眠れましたか?」

「はい。父の作ったテントなのでバッチリです」

「お父上の。その話も聞かせてもらいたいですねぇ」

「クラウス、興味があるのは分かるが、事件に関係のない聴取は許可しないよ」

「ええ、分かっておりますとも」


 シルニオ班長とサヴェラ副班長は仲が良いみたいだ。他の隊員の人たちも雰囲気は良かったけれど、この二人は特別って気がする。親友なのかもしれないな。

 ちょっと羨ましい。

 僕も友人が欲しいんだよね。田舎のスローライフで何が困るって、可愛いものがないのもそうだけど、一番の問題は友人ができないことだ。

 チロロは好きだし可愛がっているけど、あくまでもペット枠じゃん。悩みや趣味を相談できる相手ではないっていうか。

 一緒に語り合える友が欲しい。


「カナリア君、そろそろ決まりましたか?」

「あっ、ごめんなさい。えーと、おすすめでお願いします」


 メニューを広げたまま考え込んでしまった。

 皆はもう選んだようなので、僕はお店のおすすめメニューにする。ニコも同じだ。

 シルニオ班長はびっくりなことにサラダとスープだけ。ダイエット女子かな?

 で、サヴェラ副班長ががっつりステーキのセットだ。シュッとしてるのに肉食系~。

 でもって小声で注意してる。副班長が班長にだよ?


「また、それだけですか。せめて酒の肴ぐらい頼みましょうよ」

「僕はサラダが好きなんだ」

「全く。これで筋肉が付いていなければ怒るところですが、しっかり鍛えているんですよねぇ」

「朝と昼は肉を食べているからね」

「サラダみたいな肉をね」


 サヴェラ副班長はおかん属性もあるのかな。面白いけど、僕は自分のセットが届いたのでそっちに集中した。

 ニコも目の前の二人に慣れているのか、気にせず食べ始める。


「あ、美味しい」

「だよな! 騎士寮の料理よりよっぽど美味しくてビックリだよ」

「騎士寮の料理、イマイチなんだ?」


 柔らかめに表現したのに、ニコは顔を顰めた。


「イマイチどころか不味い。兵士の宿舎とどっちが不味いかで賭けをするぐらい不味い」

「えぇー。食事は体を作る資本なのにね」


 同情していると、サヴェラ副班長が話に交ざってきた。


「カナリアの発言は時々変わっていて面白いね。辺境の出身という割には学もある」

「父が物知りなので教えてもらったんです。本もたくさん読ませてもらったし」

「ほほう」

「クラウス」

「分かっています。しかし、気になるでしょう? 辺境の地にこれほどの逸材ですよ」


 シルニオ班長は溜息を吐いてから、僕に謝った。サヴェラ副班長に悪気はないそうだ。興味を持つと、とことん気になって調べる性質らしい。


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