第20話 クローザー

 ベンチから見ていても、五回までの魚沼の調子は良かった。

 四回は四番に捉えられた当たりを打たれこそしたものの、結果的にノーヒット。

 五回は三振2つを含む三者凡退と、上々のものだった。


 だが打線はどうにも上手く繋がらない。六回表の攻撃は、ヒットこそ出たものの無失点で終わってしまう。


 点が取れない以上、こちらも点を与えたくないところだが、この六回裏から魚沼の様子が怪しくなってきていた。


 先頭の八番打者を三振に打ち取った。ここまではいい。

 だが続く九番に四球を与えてしまう。

 下位の、それも投手を相手に歩かせてしまった時点で良くない兆候ではあったが、続く一番に対しては、粘られつつも三振に打ち取った。


 これならもう少し引っ張れるかとも思ったが、次の二番は妙に選球眼が良く出塁率が高い。魚沼との相性はお世辞にもいいとは言えない相手だ。

 だが一発のあるバッターではないし、魚沼もスタミナに関してはまだ全然切らしていない。どうにか力で押し切ってくれれば、この回までは引っ張れる。

 変に粘られて四球というのが一番面倒くさい。早め早めに勝負して、さっさと打ち取ってくれるのが理想だ。

 その理想は半分叶ったが、もう半分が叶わなかった。


『デットボール!』


(あの馬鹿……)


 決着は一瞬でついた。魚沼の初球が相手打者の脇腹に直撃したのだ。

 確かに手早く終わったが、出塁されたのでは意味がない。突然球が荒れ出す魚沼の悪癖が、ここにきて顔を覗かせ始めた。


 ランナーを二人置いて迎えるのは、三番バッターの高岡。

 前打席では打ち取ってはいる。

 だが仮にヒットこそ打たれなかったとしても、歩かせてしまえば満塁。そして次に迎えるバッターは四番の築城だ。ホームランでも打たれようものなら一気に四失点。それはさすがにきつい。


「おい、伝令頼む」


 一応、すでに次の投手の準備はさせていた。

 予定より少し早いが、うちのクローサーに登板してもらうほかない。


「投手交代だ」

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