第一章 復活のリバイブ-3
目の前に、自分の背丈よりも大きな岩石が落下し、砕ける。その破片がシンイチに向かって跳んでくる。
「うわっ!」
身をかがめ、破片を避ける。
だがそれよりも早く、球体からの光が破片を弾いた。が、シンイチはかがんで頭を抱え、目をつぶり、自分のからだを小さくすることにつとめていたため、せっかくの決定的瞬間を見ていなかった。
「うわーっ! うわーーーっ! ひーん! もうだめだー!」
……せっかく助けたのに……
ふたたび頭に響いた声に気づくこともなく、シンイチは崩壊する遺跡の中央で叫び続けた。その間、何度も致命的な瞬間があったのだが、そのたびに光が流れ、シンイチを守るようにふるまう。
叫び続け、息が続かなくなり、沸き立つ土埃でむせ返った頃、あたりの景色はすっかり変わっていた。
「……えーっと、あれ、死んでない?」
シンイチは恐る恐る目を開けた。
「まぶしっ!」
暗闇を想像していたシンイチは、飛び込んできた強い光に驚く。それは球体から放たれたものではなく、もっと強く、空の上の方から注いでくる光だ。
「空?」
シンイチは立ち上がった。
「げえええっ?」
頭上には、空があった。
地下空間の天井部分は跡形もなく崩落し、その代わりに「青天井」という言葉以外で表現しようもない、空が広がっていた。
「全部おっこっちゃったってか……」
シンイチのパーカーやデニムは土埃で真っ白になっている。だが傷どころか痛むところひとつない。その不自然さに怖くなり、シンイチは腕を、脚を、身体のあちこちを触ってみる。どこにも何の異常もない。
「どういうことだよこりゃあ……」
シンイチの周りには岩石とガレキが積み重なり、あたかも石垣のようにそびえたっていた。だが自分の周り数メートルには何も落ちていない。正確には、球体を中心にした周り数メートルには、何も落ちていない。まるで海が割れたことのごとく、シンイチのための空間が存在しているようだった。
「ひょっとして……」
シンイチは球体に手を伸ばす。
「俺を、守ってくれた?」
……そうよ!……
「えっ?」
独りごちたはずが、どこからともなく
答えが返ってきた。それはこの空間に立ち入ってから何度か、シンイチの頭に響いていた声だった。
「誰か、いるのか?」
……いるよ!……
「どこに?」
……ここにいるよ!……
「えっ? ここ?」
シンイチはその場でぐるっとあたりを見回すが、落石の壁がそびえたつばかり。足元には岩、そして頭上には空。
「どこにいるんだ?」
シンイチはなおも問いかける。
……だから、ここよ! 目の前にいるでしょ?……
「はい?」
振り返り、向き直っても声の主は見つからない。シンイチは立ち止まり、首をかしげる。
「幻聴か……ちょっと色々ありすぎたからな……」
……もう!……
耐えかねて、球体が光とともに圧力を発する。
「ぎゃっ!」
シンイチが、胸を小突かれたような感覚とともに倒れ込む。
「ひょっとして、その光る玉か!」
……やっと気づいたの?
もう、待ちくたびれたわ……
「そんなこと言われたっ……えぇっ?《超古代文明》の遺物がしゃべった? いや、喋ったんじゃないか、俺の意識に直接はたらきかけてる? どういうことだ? さっき直接触った時に意識とこの球体との間に」
……もう! わかったわよ!……
球体は一際強く光る。
その中で明らかに大きさが変わり、形が変わっていくのがシンイチにもわかった。
「なっ……!」
……あなたに見えるように、あなたが見たいもののかたちになってあげるわ……
さすがにその光景を前にしてつぶやいているわけにもいられず、シンイチは身体を起こしながら球体……だったものを見続ける。
塊は細長くなり、また細い突起状のものをはやし、全体のボリュームを増しながら、その姿を現していく。
「えっ……人?」
脚、腕、胴体、そして頭。それぞれに分岐した部品は一瞬にして人間のからだを形作る。
「そんな……」
まばゆい光は束ねられて髪の毛になる。青白い光が残ったような肌が、豊かなで柔らかな曲線を描く。
「これでいいかしら?」
裸足で、一歩を踏み出す。
球体から姿を変えた人型のものが、シンイチに向けて一歩を踏み出す。
いや、「人型のもの」などではない、完全に人間、人間の女性の姿そのものだった。豊かな胸、くびれた腰、細く伸びた脚。それらはすべてシンイチの眼にはっきりと、さえぎるものなく飛び込んできた。
「う……ハダカ?」
もう一歩踏み出して、それはシンイチに向けて飛び込んできた。両腕を広げて、シンイチの胸元に飛び込んでくる。
「待ってたよ!」
その両腕がシンイチの肩にからむ。顔と顔が触れあって、少しこそばゆい。そしてパーカー越しにもわかる、ふくよかな胸のボリューム。
「へっ?」
頭のてっぺんから妙な声を出しながら、シンイチは後ろに倒れ
込んだ。全身で感じたあたたかさとやわらかさ、女性の肌の質感そのものを思い出しながら、彼の意識はそこで途絶えた。
「俺、ここで死ぬんだな」
そうシンイチはつぶやいた……が、いや、死んではいない。強烈な出来事の果てに起きた突然のことに、気を失っただけである。
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