(4)一理あるな


「あっちの山のてっぺんを見るペギ」


 ペギーが指し示した先には、木が生えていない赤茶けた山があった。

 その頂上に青白い光の球のようなものが見える。


「前に会ったヤツは、あそこから帰っていったペギ」

「ほ、本当!?」


 蓮のホッペが赤くなった。

 元の世界へ帰れるとわかって興奮しているんだ。


「命の恩人にウソなんか吐かないペギ! でも、ひとつだけ問題があるペギ」

「問題って?」

「ちょっと前から、あの山はパンチョビが占領してるペギ」

「アンチョビ? なんだか美味しそうな名前ね」


 陽菜、それはイワシの塩漬けだよ。

 似てるな、とは思ったけど。


「パ・ン・チョ・ビ。このあたりで一番強いサマナーで、ちょっと乱暴で横暴なヤツなんだペギ」

「ええぇぇ、乱暴で横暴!? ちなみに……、ほかに帰る方法とかは――」

「知らないペギ」


 蓮のホッペが色を失った。

 すんなりとは帰れないと分かって落ち込んだんだ。


「考えても仕方ないわ。まずは行ってみましょ」

「そうだな。ちゃんとお願いすれば通してくれるかもしれないし」


 悠真たちは山へと向かった。

 元の世界へ帰るために、避けては通れないから。



 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □



「ダメだ、ダメだ! 帰れ!!」

「どうしてよ!? いいじゃない。ちょっと頂上まで入らせてくれればいいんだって!」


 陽菜が言い争っている相手は、もちろんパンチョビだ。

 無精ヒゲを生やしたオジサンで、一応お願いはしてみたんだけど……。案の定、山に入るのはダメだと断られたのだ。


「ここはオレ様の縄張りだ。つまり家だ。知らないヤツがいきなり『ちょっと家に入れてください』って訪ねてきたとして、『はい、どうぞ』と通すヤツなんているか?」


「一理あるな」と思わず頷く悠真と、「納得しないでよ」とあきれる蓮に、陽菜がビシッを指を差す。


「あーもう! そこうるさい! あんたたちはどっちの味方なのよ!?」

「もう諦めた方がいいペギよ。パンチョビを怒らせたらどうなるか……」

「こうなったら実力行使よ!」


 あ、陽菜の悪いクセが出た。

 子供にケンカを吹っ掛けられたパンチョビも、少し驚いたような表情。


「ほお。このパンチョビ様に実力行使だって?」

「あんた、自分がサマナーだからって調子乗ってると痛い目を見ることになるわよ。ほら、悠真。さっさとあのでっかいドラゴンを出して、コイツをやっつけてよ」


 前半は同意。

 だけど、後半は人としてどうかと思う。


「気持ちいいくらい他力本願だね」と蓮がつぶやく。


 だがパンチョビは、陽菜の言葉をすんなりとは信じない。


「まさか、このガキがサマナーだとでも言うつもりか?」

「ガキで悪かったな」


 陽菜のやり方はどうかと思うけど、パンチョビをどうにかして山の頂上へ向かわないと、元の世界に帰れないのも事実。


 悠真はデッキから真龍アルティメシアンを取り出した。


「見てろ。召喚! 真龍アルティメシアン!!」


 シンとあたりが静かになった。

 一秒経っても、二秒経っても、アルティメシアンは出てこない。


 五秒が経った頃、パンチョビが「ガハハハハ」と大声で笑いだした。


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