(2)ゴブリンではなく、コブリン
土の匂いがする。
風がふわりと顔をなでた。
ゆっくりと目を開けると、強い光が目に飛び込んできた。
「うっ、まぶしぃ……」
「悠真! 良かった、悠真が目を覚ましたよっ」
「まったく。悠真が一番最後まで寝てたわよ」
泣きそうな顔で近寄ってくる蓮と、腕を組んで憎まれ口をたたく陽菜。
いつもどおりの二人を見て、悠真は少し安心した。
「それは悪かったな……ていうか、ここどこだ?」
「わかんない。どっかの……森の中?」
「……俺たち、さっきまで教室にいたよな?」
学校どころか建物ひとつ見当たらない。
見渡す限りの木、木、木。つまり森の中だ。
いったい何がどうなっているのか。
「ねぇ、なにか聞こえない?」
陽菜がそう言うのと同時に、「ペギイイイィィィィッ!」と甲高い鳴き声のようなものが森に響いた。
「動物がいるのかな?」
「見に行くわよ!」
あっという間に、陽菜が一人で走っていってしまった。
「おいっ。ちょっと待てって」
悠真と蓮が慌てて追いかけると、陽菜は茂みのそばにしゃがみこんでいる。
そっと彼女の隣にしゃがみ、茂みから向こうを覗くと、ペンギンのような生き物が赤黒い肌をした子供に囲まれていた。
いや、あれは子供じゃない。
悠真と蓮は、あの赤黒い生き物に見覚えがあった。
「あれって……もしかしてコブリン?」
「コブリン……に見えるな」
「コブリン? コブリンってなによ」
「モンスターだ。モンマスのな」
テレビゲームに出てくるゴブリンのようなモンスター。
モンマスの設定では、オヤブリンというモンスターの子分である。
だからゴブリンではなく、コブリンという……らしい。
当然、現実の世界には存在しない生き物。
「……つまり、ここは俺たちがいた世界じゃないってことだ」
「えええええぇぇぇぇ!!」
蓮が驚きのあまり大声をあげた。
もしかして、少しも気づいていなかったのだろうか。
いや、そんなことよりも……、
「バカッ! 声がデカい」
「ご、ごめん。だって……」
蓮の大声で、茂みの向こうにいるコブリン達がこちらを振り向いた。
「そこにいるのは誰コブ!?」
「助けてペギ!」
囲まれていたペンギンらしき生き物――こちらもモンスターなのだろう――が助けを求めてきた。
相手はコブリンが三匹。こっちも三人。
相手はモンマスを代表する雑魚モンスターだし、もしかしたら勝てるかもしれない。
どうしようか考えていたら、不意に陽菜が立ち上がった。
「あんたたち! 弱いものイジメはやめなさい!!」
「しまった。こっちにもバカがいた」
せめて一人は反対側回り込むとか、戦うなら戦うで作戦を練ればいいのに。
「ジャマするなら、オマエたちも夕飯に並べてやるコブ」
「ひっ!? 夕飯? 僕たち食べられちゃうの?」
もうすでに蓮の声が涙声になっている。
コブリン達は弱腰の蓮をチラリとみると、より一層態度が大きくなった。
「人間はマズいけど、ガマンするコブ」
「早く夕飯の用意をしないとオヤブンに怒られるから、仕方ないコブ」
あ、やっぱり親分はいるんだ。さすがコブリン。
「失礼なっ! 私を食べたら、あんたたちホッペが落っこちちゃうんだからねっ」
「いやいや。それは逆効果だろ……」
一体、なにを張り合っているんだ。
陽菜はもう少し考えてから口や手を動かした方がいいと思う。
「そこまで言うなら、試しに食べてみるコブ」
「ほらな」
コブリンが、太い木の枝を削って作ったらしい『こん棒』を構えて近寄ってきた。
勢いよく振り下ろされたこん棒を、陽菜が華麗に避ける。
その隙をついて繰り出された陽菜のキックが、コブリンの側頭部に命中した。
陽菜「ヤアッ!」
コブリンB「ぎゃっ! い、痛いコブ。なんて狂暴なメスだコブ」
陽菜「誰が狂暴よ。棒で襲い掛かってくる方がよっぽど狂暴でしょうが!」
何を隠そう、陽菜は空手少女なのだ。
これはもしかしたら……陽菜だけでコブリンの三匹くらいやっつけてしまえるんじゃないだろうか。
しかし、事はそんな単純には終わらなかった。
「おそい、おそい、おそいブリ!」
「オ、オヤブン!」
「あんまり遅いから様子を見に来てみれば、こんなメスに手間取って……情けないヤツラだブリ」
森の奥から現れたのは、大人の男性ほども背丈があるコブリンの親分。
そう、オヤブリンだ。
「セイッ!」
陽菜が拳を繰り出すが、オヤブリンはビクともしない。
「痛くも痒くもないブリ」
「そんな……」
オヤブリンが、特大サイズのこん棒を陽菜に向かって振り下ろした。
「あぶないっ!!」
「きゃっ!」
思わず身体が動いた。
悠真は陽菜を引っ張って横に飛ぶ。
さっきまで陽菜が立っていた場所に、こん棒がしっかりとめり込んでいる。
「あ、ありがと」
このあと……どうしたらいいんだ?
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