【短編】異世界デュエル【20,000字以内】

石矢天

(1)幼馴染

 梅雨が明け、夏の暑さが教室をサウナに変える。

 教室のエアコンも放課後までは動いてくれない。

 小学六年生で幼馴染同士の悠真ゆうまれんは、じっとりと暑い教室のはしっこでカードを並べていた。

 これはモンスターマスター、通称モンマスだ。


「『獄炎将軍ヘルフレイミング』のダイレクトアタック! 今回こそは勝たせてもらうよ、悠真」


 蓮が歯並びの良い歯を見せてニッと笑う。

 ここまで悠真の三連勝。

 蓮にモンマスを教えたのは悠真だ。

 まだまだ負けるわけにはいかない。


「笑顔を見せるのは俺のライフを0にしてからにしなよ。ダイレクトアタックをトリガーにトラップカードオープン!」


「あっ!」という声と共に、蓮の顔から笑みが消えた。

 さあ、逆転の一手を見るがいい!


「トラップ『起死回生のクロスカウンター』の効果で、このターンにダイレクトアタックによって受けたダメージと等しいダメージを対象のプレイヤーに与える。さらに俺のターンに真龍アルティメシアンのダイレクトアタック!」

「うわぁ、また僕の負けだ……」

「これで四連勝だな」

「うーん。なんで勝てないのかなあ」


 蓮が頭を抱える。

 そこに、教室のドアを勢いよく開けて入ってきたのは、やはり幼馴染の陽菜だ。

 外で遊んでいたのだろう、額に汗が光っている。


「あっ! またこんなところでカードゲームしてる!」

「げっ、陽菜だ」


 思わず本音がこぼれてしまった。

 陽菜の顔を見ると、ちょっと怒ったような笑顔を浮かべている。


「『げっ』ってどういう意味よ。かわいい幼馴染に向かって、失礼なんじゃない?」

「自分で自分のことを『かわいい幼馴染』って――」

「れーんー? 今、なにか言った?」

「い、言ってない。なにも言ってないよ」


 蓮がぶんぶん、と首を横に振る。

 よしよし。蓮のおかげで陽菜は「げっ」のことを忘れてくれたみたいだ。


「ならよし。それにしても、なんで学校でまでカードゲームなんかしてんのよ」

「蓮が塾に行くまでのヒマつぶしさ」

「そうなんだ。家に帰るより学校から直接行った方が近いから」

「ヒマつぶしなら、外で遊べばいいのに。ほら、外はこんなに天気が……えっ!?」


 窓の方を見た陽菜が、口をぽかんと開けたまま固まった。

 つられた悠真も窓に目を向ける。


「なんだ、これ」


 窓の外に青白い光の球が浮いていた。

 人魂のような、小さなサイズではない。

 直径なら大人の背丈くらいはありそうな光球。

 光球がどんどん大きくなって、悠真の視界が奪われる。


「う、うわああぁぁぁ!!」


 遠くに蓮の叫び声を聞きながら、悠真は気を失った。

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