第9話 早乙女達精鋭のパーティは今
「くそっ、どうなってんだよ!」
京也と分れた早乙女達は京也と分かれてすぐ、モンスターの大軍に遭遇してしまった。なんとかその大軍を倒して次に進むと、大々的なトラップに引っかかり、多くの負傷者が出た。
簡易的に休憩場所を作り、負傷者の救護にあたっていると、しびれを切らしたように悪原が怒鳴るような大声を発していた。
「なんで急にこんなにモンスターが出てくんだよ! それに、こんなにトラップに遭遇することも今までなかったぞ?!」
悪原の大声にクラスメイトの視線が集まっていた。どれだけ性格が悪くてもクラスカースト上位の発言であるため、自然と視線を集めていた。
そして、そんな彼の発言は今のパーティメンバーの相違でもある。そして、視線はそんな八つ当たりを向けられている早乙女以外のメンバーに集まっていた。
「俺達だって、分からねーよ」
「今まで、こんなことなかったし」
「このダンジョンがそれだけ高難易度なんだろ、きっと大丈夫だろ」
そんな戸惑うパーティメンバーの声に対して、悪原はまた一段と声を張り上げるようにして言葉を続けた。
「大丈夫だぁ? もう半分以上の奴が負傷してんだぞ!」
そんな言葉を自分達に向けられても困る。そう思いながらも、悪原に反論をすることはできずに、ただその言葉を受け入れる他なかった。
しかし、そんな様子を見ていた早乙女は悪原の背中をポンと叩き、地震のあるような笑みで言葉を続けた。
「でも、まだ死者は出ていないだろ? 今は悲観的になるんじゃなくて、その奇跡を喜ぶべきだ!」
彼がそう言うなら大丈夫。きっと、そんな魔力が彼の言葉にはかかっていたのだろう。その言葉を聞いて、数人が安心したように表情を緩めていた。
「王子君がそう言うなら、大丈夫かもしんないけどさ。その俺達を守ってくれていた指令さんが今倒れてんだよなぁ」
しかし、クラスメイトの大半の不安が解消されることはなかった。理由は単純で、心の支えであった一つを失いかけているからだ。
この一軍を指揮する指揮官の負傷。ここまで潜る上での重要人物が大きな負傷を追っていた。
悪原達が引っかかったトラップから、彼らを救おうとして脚に大きなけがをしてしまったのだ。今は、この一軍にいる回復魔法を使えるものが治療しているが、それも時間がかかるようだった。
指揮官と多くのクラスメイトの負傷。その怪我が癒えるまで、簡易的な休憩所で回復を待つことにしたのだった。
しかし、その空気は地獄だった。
自分が原因でありながら被害者のように声を荒らげる悪原。そして、その声によって膨れ上がるパーティの不安。
「上田、大丈夫かな」
ふと、誰かがそんな言葉を漏らした。
その声は上田を心配するものではなかった。そちらに付いて行けばよかった、そんな後悔の色が見えた。
京也の方に付いて行けばこんなことにはならなかったのではないか。リーダー的存在である早乙女の判断ミスの可能性を突きたいが、突けない雰囲気がそこにはあった。
その可能性は十分にあった。京也の案内に従わなくなってすぐにモンスターの大群に襲われたのだから。
「今の声誰だ?!」
しかし、そんな心の声さえも許さないように声を上げる人物がいた。悪原である。
「王子君が間違ってたって言いたいのかよ?! ふざけんじゃねーぞ、お前ら足引っ張ってるくせに、非難だけは一丁前か!」
「やめろ、悪原。そんな気持ちで言ったんじゃないさ。上田のことが心配なんだよ」
このパーティーは指令と早乙女、それから悪原と数人が主軸のパーティだった。だから、悪原の言い分も間違ってはいない。
それでも、彼らは彼らなりのプライドがある。
クラスの中から一軍メンバーに選ばれるだけの実力がある。その実力のおかげで、二軍三軍とは違う生活ができている。
そうして形成されていったプライド。それを傷つけられて何も思わないはずがなかった。しかし、悪原にたてつけるほどの力はなかった。
その結果、ただ不満を呑み込むことしかできないでいた。表面上はなんともないふりをしながら、中身はかさぶたのようにぐじゅぐじゅとしたように腐り始めていた。
「三軍の奴を心配している場合かよ?! 生きてるわけないだろ! 俺達精鋭だってギリギリだったんだぞ!」
「……敵に遭遇していない可能性だってあるだろ」
「おい今の誰だ。王子君の判断が間違ってたって言いたいのかよ? お前らだって、自分で選んでこっちに来たんだろ!」
耐えきれなくなった誰かがした発言に、悪原は青筋を立てて怒りを露にした。そして、こうなった悪原が止まることができないのを早乙女達は知っていた。
「悪原、俺は気にしてないから大丈夫だ。むしろ、そう言う可能性だって十分にあると俺も思うから。だから、そんなに怒らないでやってくれ。な?」
「……王子君がそう言うなら。でも、今の発言出した奴だけは絶対に許さないからな」
唯一悪原を宥めることができる早乙女がそう言うと、悪原は肩で息をしながらパーティメンバーに睨むような視線を向けていた。
指令が完治するまで、悪原の機嫌に左右される日々を送らなければならない。そう考えただけで、うんざりだと溜息を漏らすパーティメンバーがいたことは言うまでもなかった。
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