【!第一部完!】サモンズ・ライフ!〜召喚獣になった僕の、食べて寝て戦って寝る何気なくない毎日〜

ヲザワリヲウタ

一話『ある日』

アイツから久々に連絡があった。『不味い事になった。自分に何かあったら息子達を頼みたい。』


これまで頼み事なんてされた事は無かった。一度も。嫌な予感がして急いで来てみたらこれだ。


アイツが家族三人で暮らす山の高台。アタシが到着した時には辺りは静まり返っていた。しかし、木々は倒れ、地面には大きな窪み、何かが爆発したような地面。戦闘の形跡が残っていた。


かすかに感じる魔人の気配。何故ここに?どこへ行った?目的は?まったくだ。分からない事が多すぎる。


気を失い寝転んでいたアイツの息子。様子を見に向かった召喚獣のオオカミが発見。妹の姿は確認出来なかった。


何があったのか。コイツの意識が戻ったら問い詰めるとする。アイツは…。


…本当嫌になる。


何度経験しても別れは慣れない。二度と経験したくないと思っていても、自分が生きている限り起こる。何度でも。この歳になると出会いよりも別れの方が多くなって困る。


だからこれまでもなるべく人と出会わない様に、親しくならない様に生活してきたし、言動にも気を遣っている。これからもそうするつもりだ。


…コイツの顔、アイツの若い頃にそっくりだ。一緒に世界を回っていたあの頃。余計な記憶がよみがえって困る。


…はぁ、本当嫌になる。


「おいオオカミ、運んでやれ」


「了解っす!」


話は二日前にさかのぼる…。


草花が芽吹き始める四月。心地良い春の風が吹く昼下がり。人里離れた山の高台に畑。そこに二つの人影。


「青い空!白い雲!茶色い土!」

「緑の野菜たち!はぁ〜幸せだなぁ〜」


「ねぇ、お兄ちゃん何やってんの!」

「お兄ちゃんも手伝ってよ!」


木陰でのんびり寝てた僕は、テイト・ノガールド。十七歳。んで、寝ていた僕を叩き起こし、畑仕事をテキパキこなしているのが自慢の妹クエラ!すごいスピードだ!


今日は父親が趣味でやっている農作業を、妹と手伝いに来ています。突然はじまる自分語り。


クエラは僕の三つ下で十四歳。いつもと同じ白の三角巾を頭に巻き、いつもと同じ赤のエプロンを身につけている。


ウチは幼い頃から母親がいないので、普段、家でも家事全般をクエラがやってくれてて…。いつもありがとうね。


それに対して僕の服装。いつもと同じTシャツにジーパン、いつもと同じサンダルで来たのが運の尽き。足の爪に土は入るし、Tシャツもジーパンも土で汚れちゃった。


まあ、こんな良い天気の日は、そんな細かいことはどうでもよくなってしまうのが不思議。


今日はクエラに『たまには外に出て体を動かそう!』と誘われ、珍しく外に出てきました。普段、家にこもっている僕ですが、今日みたいに天気が良い日は外に出て、木陰で読書でもしようかなぁ〜と思ったりします。


…結局外に出ず、家に居るんですけども。そんな男ですよ僕は。空を泳ぐ雲をぼんやりと眺め、しみじみつぶやく。

「のどかだなぁ〜」


「手を休めない!」


やっぱり爪の中に入った土が気になる。一旦自宅に戻り、お風呂で足、ついでに顔を洗った後、長靴を履いてきて畑仕事を再開した。

「たまには外に出るのも良いねぇ〜」


「ねっ!そうでしょう!」


畑仕事で汗を流していると、遠くの方でアスパラガスの収穫をしていたテイトの父、ルイボルが帰ってくる。

「お昼にしようか。」


「はーい」


「うぃ〜」


持っていたクワをその場に置いておいて、手洗い場へ。お昼ごはんは、朝早く妹が作ってくれたお弁当。

「家の中で食べれば良くない?」


「いいの!今日はピクニックがしたい気分だから!」


木陰にレジャーシートを敷き、シートが風で飛ばされないように、四隅に重石の代わりの靴を置いた後、持ってきたお弁当を三人で囲む。お腹ペコペコよ!


お弁当のメンバーは、おにぎり・鶏のから揚げ・ソーセージ・フライドポテト・玉子焼き・親父が育てた異常に甘いプチトマト。美味しそう。


僕の家では定番のお弁当で、毎年近くの街で開催される運動会や、今日みたいに妹がピクニックをしたくなる日が時々あり、その時のお弁当はいつもこれ。


いつもこれだけど、何度食べても毎回美味しいから不思議。いただきますの合掌を足早に済まし、少し遅い昼ごはんにありつきます。


右手におにぎり。左手にフォーク。勢い良く食べ始める。

「うまい!うまい!うまい!うまい!うまい!…うっ⁉︎ゴホッ!ゴホッ!」


「んもぅ!急いで食べすぎだよ!はい、お茶」


「ゴクッ!ゴクゴク!…ぷはぁ!あっぶねぇ!死ぬとこだったぁ〜」

手渡された水筒のおかげで、何とか一命を取り留めた。


真剣な表情で一言。

「…例えば、明日死ぬとしてさぁ〜」

「最期にこんな美味しいもん食べて死ねるなら本望かも」


「あぁ、それくらい美味しいよ。」


「明日死ぬとか、縁起でもないこと言っちゃダメ!」

「まぁ…ありがとだけど…」


美味しいお弁当!ほほえむ親父!照れる妹!そんな何気ない日常に浸りながら、テイトは無意識につぶやいた。

「幸せだなぁ〜」


一応、今回もプチトマトが何故こんなに甘いのか親父に聞いてみましたが、毎度同じくほほえむだけで、教えてはくれませんでした。マジでなんでこんなに甘いの?


食卓にプチトマトが出るたびに同じ質問をしますが、教えてはくれません。ヤバいもん使ってんのかな?


昼ごはんを食べ終え、三人でしばらくのんびりと過ごした後、農作業を再開。


辺りが暗くなり始める前に、残りの作業を終わらせて、自宅に帰った。自宅に着いてさっそく、お風呂を沸かす。


浴槽に水を貯め、浴槽の下にある炎の水晶に魔力を込める。すると、水晶がほのかに光を放ちながら赤くなる。


水晶の色と温度は比例していて、五分ほど待ち、水晶が真っ赤になる頃には、浴槽に貯めた水はお湯へと変わっており、お風呂が沸きました。急なファンタジー。


「くぅ〜いい湯だなぁ〜」

ジャンケンに勝利し、悔しがる妹を横目に一番風呂に入る。久々にクワを振り回してバキバキになった身体にお湯が染み渡る。とても気持ち良い。


お風呂から上がり、夜ごはんを食べ、今夜は早めに布団へ潜る。ふと気になったので、本棚から見つけてきた【魔力について】の本を、寝転びながらペラペラめくる。


「え〜と、なになに…」

私たちが住むカナタの空気中の大部分を占める"魔素"は、呼吸によって身体に取り込まれ、身体に蓄積します。


蓄積した魔素は、肢体(指先や足先)から念じることで放出が可能で、これを"魔力"と呼びます。


魔力には様々な使い道がありますが、色々な属性の水晶をあわせて用いることで、日常生活を便利にしています。


(水晶については別紙【水晶について】参照)


また、魔力は戦闘でも使用され…。


「ふ〜む。なんとなくわかったよ〜っと」

本を閉じ、しばらく天井をぼーっと眺めていると、眠たくなってきた。別の部屋に居る二人にあいさつ。


「寝るわ!おやすみぃ〜!」


「もう寝るの?おやすみ」


「あぁ、お休み。」

ひさしぶりに運動したし、頭も使って今夜はぐっすり眠れそう。本を棚に戻し布団に潜る。指パッチンで魔力を飛ばし、照明をOFFにした。


真っ暗になった部屋で目を閉じると、

二分もかからず夢の中。

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