崩壊の始まりと終わり
世界の崩壊が起きたのは、今からおおよそ百数十年前と言われている。
言われていると言うのは正確な記録が存在しないから。現在に残っているのは「その昔、一国の戦争が世界へと広がったこと。そして戦争は次々に人の住めない環境をつくり、戦争を有利なものにするために知識や技術を持つ人達から戦地へと送られていった。同時に急激な環境の変化により自然災害が頻発し、資源が枯渇した」との口伝のみ。
そして鑑定屋と呼ばれる人はそんな過去の知識と技術を知っている者が、現代で見つかる過去の道具や歴史を説明してくれる人達だと言うこと。
落ち市は奥へと進むにつれて人も物も濃さを増していく。そんな中にあった鑑定屋はごく普通の店構えをしており、鑑定屋だと気がつくのにその前を何度か通りすぎてしまった。
「すみません」
奥の落ち市は日の光も差しにくく、昼間でも店内は薄暗い。
「すみません。誰かいませんか」
人の気配はするが返事がない。私の声は少しずつ大きくなる。
「すみませーん。見てもらいたいものが「うるさいわ。何度も言わずとも聞こえとるわ」
私の声に重ねるように話す爺さんが店の奥から出てきた。
「はぁ、何だかすみません。ここは鑑定屋であってますか?見てもらいたいものがあるんですが」
「お前は何も知らずにここに来ているのか?まぁいい。何を鑑定して欲しいんだ?」
爺さんは口が悪かったが仕事は早かった。私が鞄からカメラを取り出し、爺さんに渡す前には鑑定を始めていた。
「おぉ、珍しいな。フィルムのカメラか」
「フィルム?」
「そうさ。フィルムて言うのはそうだなぁ、紙と言うのかなんと言うのか。とにかくこの中には撮ったものを写し留めておく記録用紙みたいなものがある。それがフィルム。そしてこのカメラはそんなフィルム専用のカメラだな。どれカメラをこっちに渡してみろ。もう少し見てみよう。そうだあんた、鑑定料は払えるか?」
私が鑑定を依頼する前から話し始めておいて、払えるかも何も無いだろうと思ったが、確かに爺さんはこの機械の事を知っていそうだった。私はカメラを抱えたまま鑑定料の事を尋ねた。
「鑑定料は一律三十万。後は補足料によって変わるがな」
「カメラは電池と交換してもらったからな。三十万なら手持ちで用意が出きる」
「そうか、それならじっくりカメラを見させて貰って聞きたいことに答えるとしよう」
爺さんはカメラを手に取ると覗き穴を見たり、絞りを捻ったりしていた。そして私と同じようにフィルムの残枚数を見つけた。
「こいつは驚いた。絞りもレンズもちゃんと生きている。しかも何よりフィルムが入っていることに驚いた。長年鑑定をしているが、と言っても実際に私のところに来る奴なんざ、数える程だったが。それにしてもこんなに良い過去の遺物を見たのは初めてだ。こんだけ状態がいいと、このフィルムには昔の記録が残っているかもしれない」
少年のように爺さんの声は弾んでいた。
「なぁあんた。ワシにこれを譲る気はないか?」
「
「まぁそうだろうなぁ。無理だとは思っていたがやっぱり残念だ」
「そうだ、爺さん。私はそのカメラの使い方や中のデータを見る方法が知りたいんだが知っているか?」
私は一番知りたかった事を爺さんに尋ねた。爺さんは名残惜しそうにカメラから視線を外すと私の方を向いた。
「使い方は知っている。そしてこの中にあるのはデータではない。さっきのフィルムに残る記録を写しとる写真と呼ばれるものだ。だが残念だが道具もこれを写しとれる所が此処には無い」
私は爺さんの鑑定結果に落胆した。この
「まぁ待て。そんな残念そうな顔をするな」
「それってどう言う「写しとれる所が此処にはないと言ったんだ」
また爺さんは重ねて話してきた。
「写真にすることのできる場所に心当たりがある」
「できる場所?」
「そうだ。そもそも何でたかだか百年程度で知識や技術が失われたと思う?」
「それは。隠された?とか」
「半分正解かな。戦争で技術者や知識が集められたのは知ってるな?」
「まぁ、口伝で聞いたくらいなら」
「そうか。それでその後、何が起きたか分かるか?枯渇してきた世界では知識と技術が金になったんだよ。だから本もデータも有識者も全部集められて管理された」
「それで?」
「それで百年の間の災害によってその集められたものたちも消失し、今や便利なものはあるがその理論が分からないもので溢れ、歴史も上手く伝わらなくなったのさ」
「つまり?」
「どこにその知識たちが集められたと思う?一番守りが固く一般人の入れない所」
「それって」
「そう。それらが集められ保管されていた場所の一つがこの町から出て四日程のところにある旧陸軍駐屯基地だよ。そこにならカメラの写真を取り出す道具が見つかる可能性がある」
爺さんはニヤリとし、やはり少年のように得意気に話していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます