停止した世界の記憶の形を求めて

ろくろわ

落ち市の掘り出し物


「んで、そこにあるはいったい何ですか?」


 幾つかの商品が並んでいる、机の上に置いてあった片手を広げたくらいの大きさの四角い箱を指差し、私と向き合って座る店主に聞いてみた。


【落ち市】と呼ばれている所謂いわゆる、使用用途の良くわからないものやガラクタ、とあるジャンルに特化したもの。希少価値の高いものから日用品まで、有りとあらゆる物が並べられている商店街の一つにソレは並べられていた。


「さぁこれが何なのかは俺も良くわかんねぇ。多分、昔のカメラだとは思うんだけどな。つい先日、があっただろ?その時、前々から崩れそうでヤバかった遺物が遂に崩れてな。今そこに調査が入ってるんだが、そこで見つかったものの一つがこれだ。このご時世、かねの価値なんて紙であること以外無くなってしまったしな。こんな訳のわからない物や食料、動く機械の方がよっぽど価値があるってもんだ」


 店主の男はそう話ながらその四角い機械を私に差し出してきた。


「成る程。確かに見た目はカメラのようだが、カメラってこんなに大きい物なのか?それに撮ったものを確認する画面は無いし見たところ充電ができそうな所も無いが」

「だからぁ俺も良くわかんねぇって。ただレンズとボタンの配置がカメラに似てるってだけで、どうやって使うのかもわかんねぇし実際はカメラと違うものかも知れねぇ。それにそもそも今使えるカメラもかなり希少だからな。だがな、うちの店ではそんな希少なカメラも置いてあるよ」

 店主は店の奥から箱に入った薄いカード状のカメラを取り出し、一枚私の写真を撮ると画面に映る私を見せてきた。

 薄いカメラに興味の無い間の抜けた私が映る姿を見せ「はい、撮影料五万円ね」と言ってくる店主をあしらいながら、私は先程の昔のカメラと言われたものを見ていて気がついたことがあった。

 シャッターと思われるボタンのすぐ横に残十二と表記があった。

 もしもこれがカメラなら、この中にはデータが残っている可能性がある。どんなものか分からないしデータも取り出せるか分からない。だけどこの古くて大きな機械の中には昔の記録があるかもしれない。そう思うとどうしても手に入れたい衝動が押さえられないでいた。

 どうしてそんなに気になったのか。カメラのフォルムが気に入ったのか、過去の遺物に心惹かれたのかは分からない。


「なぁこれが何なのか。どうやって使うのか分かる方法は無いか?それが分かればその機械買ってやってもいい」


 店主は少し考える様子を見せながら私の手から機械を回収し、通りの少し離れたところを指差した。


「この通りの奥に鑑定屋ってのをやっている爺さんがいる。こんな世の中になっちまって知識を持っている人はごく稀だ。特にまだ世界がちゃんと動いていた時代のことを知っている人は殆どいない。爺さんはそう言ったことに聡いと聞いたことがある」


 店主はそう言いながらも曇った表情をしながら続けた。


「ただ、誰も知らないことだから本当の事かも分からない。それに鑑定料もかなり高額だ。そこまでして分からないものを調べようとする奴なんざこの世にはいないよ」

「そうかぁ。ありがとう親父さん」

「なぁに、良いってことよ。さぁ、ところでお前さんこの機械は買うのかい?」

 店主さんの顔はすっかり商売人の顔になっていた。

「あぁ、店主殿。この機械は幾らで売ってくれるのか」

「そうだなぁ、珍しいものだし五十万ってとこかな」

 店主の出した金額は以外にもまともな値段で私は少し驚いた。

「なんだい?そんなに驚いた顔をして。俺が高値でふっかけると思ったのか?」

 そんな私の顔を見てなのか、店主は笑いながら話しかけてきた。

「現金以外の物々交換でもいいよ。使えるもの、価値のあるもの。食料ならなおのこといいかな」

「正直助かるよ。手持ちに五十万はなかったから。これでどうかな?」

 私は鞄の中から封の切られていない単三電池五本と電球を一つ差し出した。

「おいおい、これまだ使える新品の電池かい?どこでこんなものを?まぁそんなことはどうでもいいか。これなら電池だけで十分だよ。電球は持って帰りな」


 店主は電池を受け取るとその四角い機械を代わりに差し出した。


「毎度あり!またよろしく」


 威勢の良い店主の挨拶を聞き、私は受け取った機械を大事に抱え落ち市の奥へと歩みを進めた。



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