第1話

時は、数時間前に遡る。

中学卒業後しばらくの春季休暇の間、

毎日昼夜逆転の生活を送っていた俺は当然の

ように、入学式当日の今日寝坊をした。

行事というものは本当に怖いもので、今回の場合自己紹介のこととか、担当の先生のこととか、色んなことを前日の夜に想像して、

気づいたら眠れなくなっていた。

こんな風なドキドキ感を与えて当日にデバフをかけようとしてくる。良いことがあると悪いことがあるとはよく言うが、全くよくできてると毎度痛感させられる。

という具合に俺の希望に満ち溢れていたはずの高校生活のスタートはボロボロのものになった。

朝食を食う時間など当然なく、勢いよく家を飛び出した俺は、なれないローファーで転びそうになりながらも駅へ全力疾走していた。その間、曲がり角で可愛い女子高生とぶつかり恋に発展しないかななどという悠長なことをつい

考えたりもしたがそんな余裕はすぐになくなり

頭の中は肺の痛みと、遅刻の二文字でいっぱいになり心臓がキュッとなったのを感じていた。


そんな調子で事前に予習しておいた電車のルートも分からなくなり、あたふたした結果、奇跡的に覚えていた緑色の電車という特徴をたよりに電車に乗りこんだ。

そこで初めて社会の厳しさを見に染みて味わった。それは、これからの高校生活どころか人生をリタイアしたくなるほどのそれはそれは格別な体験だった。

ボロボロになった体で、受験時の記憶を頼りに、通学路を闊歩する。決して子鳥のさえずりは聞こえてこないし、俺の隣には美人の

幼なじみはいない。

「ーーーーーねぇ」「ーわーーだよねぇ」

周りの人がしてる会話ってどうしてこんなに

絶妙に内容が全く分からないぐらいの音量で聞こえて来るんだろうか。そのせいで自分のことを悪く言われていると被害妄想を展開し始める厄介陰キャが出てきてしまうかもしれないでは無いか。勘違いしないで欲しいが、

決して俺のことを言っている訳では無い。

決して俺はそんなことを考えたことは無いのだ。

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リロード yusumai @yusumai

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