誰にでも冷たい氷室さんだが…何故か今日も僕にだけデレる

ALC

第1話誰にでも冷たい氷室さん。でも僕にだけはデレる

高校に入学して一年が経過した。

一年も経てば人気者の地位は確立されているもので…。

我が高校でも男子に人気の氷室霙ひむろみぞれと女子に人気の火神焔かがみほむらの二強が存在する。

現在、女子に人気の火神が氷室へ告白しようとしている真っ只中である。

「氷室。俺と付き合ってくれ」

火神はサッカー部のエースで将来も有望視されている人物である。

もちろん眉目秀麗で全女子生徒が彼を狙っているのが現状である。

「………えろ…」

氷室は静かな声で何か言葉を発していた。

ただ火神の告白シーンを野次馬のように注目している生徒にも聞こえないような掠れた声だった。

「何だ?OKってことか?」

火神は氷室に近づいていき右手を差し出す。

爽やかな笑顔で氷室の前まで行った火神に待っていた言葉は…。

「私の前から消えろって言ってんだよ」

氷室の冷ややかな言葉が校庭に響き渡る。

「は…?え…?」

氷室からのあまりにも厳しい罵倒に火神は思わずたたらを踏んだ。

睨みつけてくる氷室に気圧された火神はそのまま逃げるように校庭を後にする。

それを目撃していた全生徒は思わず息を呑んだ。

「火神くんを振るなんてありえないんだけど!」

女子生徒の声は概ねこのようなもの。

ただしそこには、

「ラッキー!氷室さんが断ってくれて傷心中なら私にもチャンスがありそう!」

こんなゲスな勘繰りもあったのは事実。

「火神で無理なら俺たちじゃあ絶対に無理だろ…」

男子生徒の声は概ねこのようなもの。

ただしそこには、

「直接、あんな罵倒受けられるなら俺も告白しようかな…」

こんなゲスな勘繰りもあったのは事実。

校庭での告白が終わると生徒は散り散りになった。

下校する生徒や部活や委員会に向かう生徒。

それぞれの道に生徒は向かっていく。

僕は放課後の教室を抜けた足で近くの喫茶店に向かう。

オシャレで静かなその場所は僕の憩いの場である。

そのベストプレイスで読書に耽りながら時間をつぶすのが僕の放課後のルーティンである。

おかわり無料のコーヒーを三杯飲んだ辺りで帰宅するのがいつもの決まり。

本日もそのお気に入りの場所で読書に耽っていると普段は見ないその人物と鉢合わせることになる。

その人物は僕の後に喫茶店に入ってきた。

僕を見つけた彼女はぎこちない足取りで僕の座るテーブルまでやってくると対面に腰掛けた。

「彼方くんもさっきの見ていましたか…」

その人物は氷室霙であるのだが先程とは明らかに態度が異なっている。

柔らかく少しだけおどおどしたような彼女に僕の脳は思考を停止させた。

「見てたよ。迫力あったね。男子はビビってたよ。僕もだけど…」

事実を口にして氷室の目を見れずにいると彼女は必死に弁明するように口を開く。

「違うんです!普段はあんな事言わないんですよ!?誰にでも冷たいわけじゃないんです!」

「そうなの?でも火神で無理なら誰でも無理でしょ」

「そんなことは…」

「じゃあ誰か好きな人がいるんだね」

氷室はそれに頷くと頬を赤らめて僕の両目を射抜くように見つめていた。

勘違いを起こさぬように目線をそらすと氷室に提案をする。

「ここに居るなら何か頼んだ方が良いよ」

彼女はそれに頷くと喫茶店のマスターに注文を済ませるのであった。


喫茶店で氷室と連絡先を交換して帰宅するとすぐに通知が届く。

「私の好きな人は彼方くんなんだけど…身に覚えはない?」

そのメッセージに僕は思考を巡らせるが全く覚えがなかった。

「どうして僕を好きなのかは全くわからないな…ただ光栄であることは変わりないよ」

「じゃあいつか私がそれを打ち明けるか、彼方くんが過去を思い出した時。付き合ってくれますか?」

氷室からの突然の告白に僕は喜んで了承の返事をする。

お互いにキープをしあった関係は今始まったばかりなのであった。

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