第22話 感冒剤3号

 古くからの常連のお客様がカウンターで言いました。


「いつもの感冒剤3号ある…? 」


 聞きなれないお薬ですよね。

 総合感冒薬といえば

「ルル」「パブロン」「ジキニン」「エスタック」「コンタック」などが有名です。


 いずれもいい薬だと思います。

 実際に僕も販売しています。


 この感冒剤3号とは「薬局製剤」なのです。

 ちなみに粉薬です。


 薬局には市販の一般薬と処方箋がないともらえない調剤薬、さらにもうひとつ「薬局製剤」というものがあります。


 薬局で造るお薬です。

 

 材料、作り方は決まっています。

 規定がちゃんとあります。

 それにのっとって製造します。


 といっても、すべての薬局が製造できるわけではありません。


 薬局製剤製造販売業の認可が必要で、各自治体保健所への申請となります。


 最近では認可をとっている薬局さん、

 少ないです。

 ほとんど聞きません。

 申請とか面倒くさいし

 なにしろ造るのは大変です。


 ですがいいのです。

 昔ながらのお薬という感じです。

 ちゃんと薬局名の入った箱もつくってあり、カウンターの後ろにおいてあります。


 不思議なもので…

 なんて書くといけませんから、

 薬ですのでね、当然効果はあります。

 

 アセトアミノフェン、いわゆるカロナールやエテンザミド、キキョウ末、カンゾウ末が入っています。


「昔ながらの薬」

「昔ながらの包装」

「昔から飲んでいる感冒剤の味」

 いろいろ相まってね、いいのかもしれません。

 はい…私も飲みます。

 みんながおすすめしてくれます。


 ちょっと具合が悪いと

「3号飲んどけ!」

 義父に言われます。


 そして飲みます。

 お勤めの薬剤師さんたちも…

 薬剤師さんが使うお薬なのです。

 そうゆうことです。


 なので少なくなるとみなさんからプレッシャーがかかります。

 

 製造には半日近くかかります。


 しっかりと各薬剤を計り、乳鉢のお化けのようなもので撹拌します。

 マスクをして換気扇をかけ徐々に薬剤をいれてね…


 最近では奥さんと僕夫婦の共同作業になっています。

 愛をこめて作ってます。


 意外と大変なんです。



 ダマができてもいけないし、なにしろとてつもない大きさの乳鉢でやるのですから。

 腕が痛くなります。


 うまく撹拌でき完成すると今度は一包化します。

 普段使っている分包機では粉が細かすぎていろいろと不都合なので昔ながらの手動の分包機を使います。


 このためにまだ古い分包機をとってあるのです。


 もしお近くの薬局で風邪のご相談をしたさいに

「薬局製剤の感冒剤3号ってありますか…? 」

 と訊いたら


 “この人ツウな患者さんか製剤やっていた薬局の薬剤師さんかもしれない…”と思われます。


 他にもハンドローションや便秘薬の「薬局製剤」もございます。

 

 そう…


 薬学部の学生さんが実習で来ます。

 三か月くらいいるのですが、いろいろと体験してもらうなかに

 この薬局製剤の製造を入れています。


 他の近くの薬局さんでは造っていないので、

「今度いつ造りますか…実習生行かせてもいいですか…」

 と問い合わせがくることがあります。


「ああ…そうしたら来週の木曜日の昼過ぎから来てください」

 なんて応えます。


「お世話になります…」

 と言ってその薬局の指導薬剤師さんと実習生が来たりします。


 他の薬局では本当にやっていないですから…



 うちに実習している学生も外から見にくる学生も現役の大学生です。

 いつもはキャピキャピの女子大生がいい! 

 断然いい! 

 絶対にいい!

 と個人的には思いますが、こういったときには男の子がいいのです。


 撹拌してもらいます。

 若いです。

 疲れません。

 学生も


 僕も。


「ほら、君が造った最初の薬局製剤、家族に持って帰りなよ」

 扱いとしては一般薬、OTCですのでね、処方箋がなくても普通に売れますし、あげられます。


 疲れを見せない彼が帰ったあと、僕は奥さんに言います。


「ねえ、彼がいるうちにあと1回くらい造ろうよ」


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