第12話 慕われるオークさん【サイド回】
【サイド:オルグレン】
俺はオークのオルグレン。
魔王軍で一応、ゴブリンたちを束ねる、将軍という立場についている。
魔王様はこのたび、世界征服に向けて動き出された。
ということで、俺も魔王様のために、全力で尽くそうと思っている。
まず最初に、魔王様はフリンク村を征服された。
そしてこの俺に、フリンク村の統治を任せてくださったのだ。
よし、これはなんとしても期待に応えよう。
俺はそう思った。
俺が統治するからには、フリンク村の連中に安息はない。
魔王様はお優しい方だが、俺はそうはいかない。
人間なんぞには容赦をしない。
俺は悪逆非道の限りを尽くし、恐怖で村の連中を震え上がらせるのだ……!
それなのになぜか……。
俺は村人たちから慕われていた……。
なぜだ……?
本当になぜだ……?
「オルグレンさまー! 今日もお元気そうで何よりです」
「あ、ああ……」
通りすがる村人たちから、俺はねぎらいの言葉をうける。
この通り、村人たちからはかなり慕われているのだ。
俺はもしかして、舐められているのか……?
おかしいな、ちゃんと村人たちに怖がられるようにしているはずなのだが……。
よし、ちょっと奴隷たちをいたぶりにいこう。
俺は鉱山に足を向けた。
鉱山で働いている奴隷たちに、恐怖を植え付けにいこう。
「おいお前たち、しっかり働いているんだろうなぁ!」
俺は怒号を鳴らす。
しかし、村人たちはニコニコ笑顔で振り返る。
「あ、オルグレン様! 見に来てくださったんですね!」
「部下に任せずに実際に現地に見に来るなんて、さすがはオルグレン様。できた領主だ……」
むぅ……。
どうにも俺の怖さが伝わっていないようだ……。
ここはもっと怒鳴りつけてびびらせてやろう。
「おいてめえら! もっと馬車馬のように働け! ちんたらしてんな! もっと本気出せるだろ! ほらはやく!」
俺がそう言うと、村人たちは手を早める。
「うおおおおおおお! オルグレン様がそういうなら! もっと頑張ります!」
「うおおおおおお! 喝ありがとうございます! やる気でるっす!」
なぜそこで喜ぶのだ村人たちよ……。
さらに村人たちは、バフ役のエルフたち懇願する。
「うおおおおおエルフさんたち、もっと付与術かけてください!」
「え……でも、これ以上はさすがにやめておいたほうが……明日筋肉痛になるぞ……」
「いいんです! オルグレン様にいいとこみせたいんです! うおおおおお!」
はぁ……ダメだこりゃ……。
くそ、こんなんでは魔王様に怒られてしまう。
だからといって、暴力はだめだ。
人間たちは簡単に壊れてしまうからな。
だから暴力に訴えることはできない。
だが、いくら怒鳴りつけたところで、この調子だ。
だが勝手にさらなる労働を強いるのもできない。
魔王様は過労死には厳しい方だ。
勝手なことをして、村人たちが死んでしまったりでもしたら、俺の首がとぶ。
だがこのままでは、村人たちになめられたままだ。
なんとか村人たちにさらなる恐怖を与えられぬものか……。
こんなふうに舐められていては、俺としても部下たちにしめしがつかない。
そうだ……!
俺はあることを思いついて、一度村に戻る。
そのときだった、歩いていると、子供にぶつかってしまった。
俺は背が高いから、人間の子供はついつい目に入らないんだ。
俺の足元にぶつかった子供は、その場に倒れてしまった。
俺は子供に優しく手を差し伸べる。
俺のせいで倒れさせてしまったのだ。
申し訳ない。
「怪我はなかったかい……?」
「は、はい……!」
子供は俺の手をとって、ゆっくりと立ち上がった。
すると、そんな俺の姿を眺めていた周りの村人たちから、拍手が巻き起こる。
「さすがはオルグレン様だ……! 子供にもお優しい……!」
「んな……! こ、これは違う……!」
はぁ……。
くそ、面倒なところを見られてしまったな……。
これじゃますます、俺が優しい人みたいに見られるじゃないか。
違うんだ。
俺は悪逆非道の魔王軍幹部、オルグレン様なのだ……!
仕方ない。
ここは手を打とう。
俺はあることを思いついた。
魔界にある、ある果物がある。
その果物の名は、バルヴグレム。
非常に独特の味がする果物だ。
まあ、決して美味しいとは言えない。
苦いし、酸っぱいし、臭い。
だが、その代わりに、滋養強壮の効果があるのだ。
俺はこれを、村人たちに差し入れすることにした。
まあ、ちょっとした嫌がらせだ。
ゴブリンたちにもよくバルヴグレムの差し入れをするのだが、みんな非常に嫌がる。
これで少しでも俺のことを怯えてくれればいいのだが……。
くっくっく……人間どもよ、バルヴグレムの恐怖に怯えよ……!
俺は鉱山にいき、バルヴグレムを差し入れする。
「おいお前ら、ありがたく思え! 俺からの差し入れだ……! っくっくっく」
「おお……! オルグレン様、ありがとうございます!」
ふふん、これがただの差し入れだと思っていやがる。
だが一口食べたら、その表情も変わるだろう。
俺が最悪の領主だと思い知るがいい……!
しかし、村人たちはそれを一口食べると、大喜びした。
「おお……! これは……! うん、なかなか独特ですね……! ですが、オルグレン様がわざわざ差し入れしてくださったなんて……! 俺たち、感激です……!」
「えぇ…………? まずくないのか……?」
「そんな……! オルグレン様がくださったものをまずいだなんて……! 前の村長のときなんかは、差し入れなんかありえませんでしたしね。普段の食事すらまともにもらえなかった……。あのころに比べれば、どんなものでも食べれるだけありがたいです……!」
「そ、そんな…………」
俺の渾身の作戦が……。
なぜみんな、そんなに喜んでバルヴグレムを食うのだ……。
あ……あっというまになくなった。
「うん、美味しかったです。ようし、食べたら力が湧いてきた……! よし、みんな! もっと頑張るぞ……!」
なんだこいつらは……。
どこまで頑張るんだ……!?
さすがに村人たちが心配になってくる。
こう毎日一生懸命に働かれると、大丈夫なのか……?と思う。
頑張ってくれるのはいいのだが、それで過労死とかしたら本末転倒だからな。
それに、魔王様に怒られる。
このままだとこいつら、本気で死ぬまで働きかねん……。
さすがにちょっと、休憩させるか……。
「あのな……お前ら……もっと休め」
「えぇ……!? 俺たち、まだまだ働けます……!」
「馬鹿者……! 身体を壊されたら、俺が魔王様に怒られる……! あの御方は、過労死にはとことん厳しいからな……。前に魔王城で部下を過労死させたやつが、打ち首にあったんだ。ということで……お前たちの頑張りをしょうして、特大ボーナスを出す! これで一週間のあいだ、好きにバカンスを楽しんでこい!」
「えぇ……!? 一週間も休みを頂けるんですかぁ!?」
ということで、俺は村人たちに休みを与えることにした。
そしたらめちゃくちゃ感謝された……。
あれ……?
こういうところがダメなのか……?
なんかまた俺がいい領主だって、慕われたんだが……。
はぁ……もういい、どうにでもなれ……。
俺はすっかりあきらめた。
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