【南城矢萩視点】夜宵に好きな人が?!
「神田君って、駒田さんのことが好きらしいよ」
そんな話が聞こえてきた。
「……は? マジで?」
学校からの帰り道、なんかよくわからないけどわらわらと女子が集まってきて、前後左右ガッチリ固められた状態で歩いている時のことだ。俺は夜宵と二人だけで帰りたいのに。この時期は何でか毎年こうなるのだ。
ちら、と後ろを見る。後ろにいた女子が、キャッと小さく叫んだ。そんなびっくりすんなよ。ごめんて。てか用があんの、お前じゃねぇし。女子と女子の隙間から見えるのは、少し離れたところを歩いている夜宵だ。なんでそんなに離れるんだよ。こっち来りゃ良いのに。
そう思うけど、夜宵はたぶん、女子のこのきゃあきゃあうるさい感じが苦手なのだ。女子と全く話さないとか、そんなことはないんだけど、積極的に関わろうとしないというか。
だけど、例えば困ってる女子がいたらサッと助けたりするし、無愛想なわけでもないから、そういうところがクールで、王子様みたいで、あとなんだっけ、そう、大人っぽくてカッコいいんだと。俺はそれが正直面白くない。
夜宵がモテるからやっかんでるとか、そういうことじゃなくて。
夜宵は別にクールじゃない。俺の前ではよく笑うし、なんか捻りの効いたジョークも言う。ただ俺が馬鹿だから、笑いどころがよくわかんねぇだけで。それと、王子様みたいってのはまぁ否定しないけど、優しくてスマートだから、っていうよりは、ちょっと天然気味で浮世離れしてる感じだから、って方がしっくりくる。
お前ら、夜宵の何を見てんだよ。そのカラコンとかいうやつは度が入ってないのか? 黒目を大きくするだのなんだのって、何がいいのか全然わかんねぇ。黒目がデカいと何かいいことあんの?
ていうか。
夜宵がモテんのは嫌だ。だって俺は、夜宵のことが好きだからだ。幼馴染とか、親友とか、そういうんじゃなしに。やめろやめろ、そんな好き好き言って夜宵がその気になっちまったらどうしてくれるんだよ。
そんで何? 駒田? 委員長か? あのちょっと大人しくて真面目なやつだろ? 何だよ夜宵、ああいうのが好きなのかよ。まぁ、派手目なギャル系よりはそっちかなとは思ってたけど。
「そ、それ、ドコ情報? 夜宵が言ってたのか?」
「え?」
既に話題は別のことに移っていたらしく女子達は、きょとん、と首を傾げる。
「さっきの! 夜宵が駒田を好きとかいうやつだよ」
後ろの夜宵に聞こえないよう、トーンを落として問いかける。その女子も夜宵の存在に気づいているらしく、いかにも秘密の話を打ち明けるように身をすくめて、こそり、と話した。
「あー、あれね。駒田さんが言ってた。神田君に、他の人のこと好きになったら困るって言われたって。だからあたしがね、言ったの。それ絶対好きってことじゃん、って」
ちょっと待て。お前が言ったんじゃねぇか! 何余計な一言添えてくれてんだよ!
「神田君って意外と独占欲強いんだね」
「ね、ちょっと意外〜」
「でも、『困る』ってのがなんか神田君らしいかも! ちょっと可愛くない?」
「わかるー!」
いや、でもマジかよ。夜宵がそんなことを駒田に? マジでそういう意味なのか!? 俺そういうの全然わかんねぇ。夜宵も何で俺に話してくれねぇんだ!
ていうか可愛いって何だよ! 夜宵の可愛さをお前らが知るな!
「南城もさ、いつまでも神田君にべったりしてないで、彼女作ったら良くない?」
「はぁ? なんで俺が」
「だってそしたらさ、Wデートとか出来んじゃん?」
Wデートだぁ? 冗談じゃない! 何が悲しくて彼女とイチャついてる夜宵の姿を見なくちゃなんねぇんだよ!
俺がそんなことを考えている中、周りの女子達は俺の彼女にでもなったつもりなのか、「でも駒田さんとは会話続かなそうだし、厳しいかも」だの「Wデートの醍醐味は向こうのカップルにこっちのラブラブ度を見せつけること」だのと盛り上がっている。南城もそう思うよね? などと顔を覗き込みながら言われたが、「知らね」と返して、俺は走り出した。
「ちょ、南城?」
「南城君!?」
うるさいうるさいうるさいうるさい。
ちらりと後ろを振り返ったが、案の定、誰も追ってこなかった。最初からこうすれば良かった。どうせあいつらはそのうちいなくなるんだし、そしたら夜宵と帰れるから、なんて思って我慢してたけど、最初からこうやって振り切って帰れば良かったんだ。
そしたら、余計なこと知らないで済んだのに。
夜宵だって中三にもなりゃ好きな女子の一人や二人、出来るよな。
「ちくしょー……」
込み上げてきた涙を制服の袖で拭う。覚悟はしてたつもりだった。俺は男だし、あいつも男だし。男同士は恋愛出来ねぇんだって。頭ではわかってたつもりだった。
ぐしぐしと乱暴に擦りながら歩いていると、
「萩ちゃん!」
夜宵の声がした。
振り向くと、真っ赤な顔で息を切らせた夜宵がいる。俺が走り出したことに気づいて追ってきたんだ。夜宵の足じゃ俺に追いつけないもんな。
「萩ちゃんどうしたの? 目が赤いよ? 大丈夫?」
「大丈夫。ちょっとゴミが入っちまっただけだから」
「見せて」
「むぇ?」
有無を言わさず両頬を掴まれて固定され、上向かされる。悔しいことに身長は夜宵の方がデカい。夜宵のこめかみから汗が流れているのに気がついて、顔の近さにドキドキする。
「大丈夫、もう取れたみたい。何も入ってないよ。しばらく違和感あるかもだけど、擦っちゃ駄目だよ」
「お、おう」
俺の気持ちも知らないで、夜宵はいつも通りの優しい笑顔だ。俺にだけだと思ってたその笑顔は、そのうち駒田に向けられるのだろう。そう思うと、引っ込んだはずの涙がまた込み上げてくる。
「萩ちゃん?」
「な、何でもない!」
泣き顔を見られたくなくて、俺は夜宵を振り切って駆け出した。家まで全力疾走だ。
「待ってよ、萩ちゃん!」
その言葉に、立ち止まりたくなるけど我慢だ。あっという間に家に着いて、振り返らずにドアを閉めた。
「
たまたま廊下にいた専門学生の兄貴が、ダンベルを片手に問いかけてくる。
「うるせぇ!」
そう返して、俺は部屋に飛び込んだ。
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