SEED1 〜story of fantasy

水野・J・タロー

1章 対面

第1話

朝日がゆっくりと寝室の窓を透過し、その温かい光が私のまぶたをやさしく叩いた。眠りから覚めた瞬間、意識は少しずつ現実に戻っていく。目をこするようにしてゆっくりと体を起こすと、そのまぶたの下に広がる景色は、まるで夢から覚めたように鮮明だった。



部屋の中には静寂が広がり、朝の新たな始まりを感じる。布団から抜け出し、窓際へと足を運ぶ。ガラス越しに見える風景は、朝日に包まれているようだった。木々の葉が優しく揺れ、小鳥たちのさえずりが耳に心地よく響く。



窓を開けると、新鮮な朝の風が顔に触れる。その爽やかな感触が目を覚まし、心地よい眠気を一掃する。朝露に濡れた花々の香りが漂い、私の鼻腔をくすぐる。



「おはようウルジュ!朝畑で採れた野菜、良かったらいるかい?」 


下を覗けば、畑作業を終えて帰ろうとする隣のステアおばさんが笑顔でこちらに手を振りながら話しかけられる。



「おはようございます、ステアおばさん!野菜いいんですか!いつもありがとうございます!」


私は喜びを込めて返事をすると、急いで階段を下りて玄関の扉を開けた。

 


ステアおばさんの畑は、季節ごとに美しい野菜たちで埋め尽くされている。色とりどりの野菜が元気に茂り、生命力に満ちていた。私はその光景を見る度に、自然の恵みに感謝せずにはいられない。



ステアおばさんはにっこり笑いながら、大きなかごに採れたての野菜を詰め始めた。「今朝採れたレタスとキャロット、そしてトマトもあるわ。」と、優しく声をかけてくれた。



私はその美しい野菜たちに目を奪われながら、感謝の気持ちでいっぱいになった。新鮮な朝の空気に包まれながら、畑から摘み取った野菜の香りが心地よく鼻をくすぐる。まさに自然の恩恵を受けている幸せを感じた。


「ステアおばさん、こんなに立派な野菜をありがとうございます。」


心からの感謝の意を伝えると、おばさんは満足そうに頷いた。



「な〜にウルジュちゃん、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。あんたはまだ成長期なんだから!嫌いになるくらいたくさん食べなさい!


ステアおばさんは優しい笑顔で話す。



私はかごに詰まった野菜を抱えながら、心からの幸福感に満たされた。この特別な朝、自然との繋がりを感じながら、ステアおばさんのお土産を抱えて台所へと向かう。料理をする喜びが胸に広がり、朝食の準備に取り掛かった。


「よ〜し!それじゃあ今日の朝はと…あ〜そういえばこの包丁切れ味落ちてるんだった…」


包丁を手に取り、野菜を切ろうとしたが、予想外の状況に困惑した。


包丁が鈍っていることに思い出したのは、まさに料理を始めようとする瞬間だった。朝の時間は貴重で、野菜を切る作業に手間取ることは避けたい。しかし、あいにく新しい包丁を持っていなかった。



「はぁ…今日はルージュラに行ってこの包丁を研いでもらうのと新しいの一本買おうかな…」


ため息を漏らしては、複雑な心境で朝食をとり、包丁を布で包み鞄にしまい込めば家をあとにする。


村の西側に位置するレガノン王国の王都ルージュラ。地下に眠る潤沢な地下資源と海岸に沿って造成された海港によって街は発展、それに伴い人・モノの流れがこの街に一気に集まった。しかし今は、その流れも緩やかになってきている。それでもルージュラの街は賑わいを見せていた。店先にはきらびやかに輝く宝石や貴金属の装飾品が通路を挟んでショーウィンドウに飾られていた。私は初めに包丁を研いでもらうため、研ぎ屋さんを探し始めた。



路地裏にある小さな研ぎ屋さんを見つけると、中からは職人の手さばきと砥石との摩擦音が聞こえてきた。ドアを開けると、熟練した職人が包丁を研いでいる様子が目に入った。



「おはようございます。この包丁を研いでもらいたいのですが?」と私は丁寧に尋ねると、職人は笑顔で返答した。


「おうウルジュじゃねぇか!ここに来るの久々だなぁ!包丁の研磨か?任せろ!」



包丁を職人に渡すと、彼は丁寧にそれを受け取り、作業に取り掛かった。私はその間、周りの様子を観察し、店内の研ぎ屋さん特有の雰囲気に身を委ねた。


待つ間、私は新しい包丁を購入することにした。街には包丁専門の店や調理器具店が多くあり、多種多様な包丁が並んでいた。美しい刃物たちが、私に新たな料理の可能性を予感させてくれた。



「おい、貴様がウルジュか?」


突然、低く突き刺さる声が背後から聞こえた。振り返ると、赤く艶のある髪をまとめ、甲冑を身に着けた女性が立っていた。彼女の目は鋭く、何か獲物を狙うかのように睨みつけていた。


「はい、そうですが、何か用ですか?」私は警戒しながら尋ねた。


「私はレガノン王国近衛兵団長、マーガレット。女王マリー様から“王城に来るように”とのお達しだ。」


彼女の目には、威厳と忠誠心が宿っていた。私は彼女の指示に従い、王城へと向かうことを決意した。

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