3人の聖女と1人の聖女(?) ~聖魔法が使えるのは聖女だけだからと、女装して学園に通わされているんだが~

yアキ

第1章 過去追憶(なんで僕が聖女に!?)編

#1 『聖女は男だった!』




 ■




 街の大通りの真ん中、馬車が行き交うなかに僕はいた。


「あー……」


 春先、太陽が眩しい。

 大きな荷物を荷台に積み、幅広く人通りの多い道を進む。

 隣には馬車が並んで歩んでいる。


『ぶるひひひ! ……ひひーん!』


 馬の鳴き声が耳元で聞こえる。


 後ろに曳いている荷物の重さでため息をついている訳ではない。

 しかし、時折、並走する馬が吐く息の荒い息の臭いは、そこそこ良い育ちの僕からすると耐えがたい。

 でも目的地は近いのだ。

 頑張って耐えよう。


 前方には、広大な敷地に建つ大きな城のような建物がある。

 シンプルだが趣深く歴史を感じさせ、しかしただ古ぼけたと形容しがたい迫力がある。

 すわ王様の住む城か――とも見えるそれは、僕がこれから通うことになる『学園』である。


 ここは異世界!

 ファンタジー風で魔法アリ剣アリ、聖女なんて存在も実在する。

 巨大な陰謀もきっとあり、勇者的な存在とか魔王的な存在もいるかもしれない。

 ドキドキワクワク。


 そんな、この世界に生まれ落ちたときの感動を今の僕はもう失ってしまっている。

 何故か。

 それは、僕の状況にあった。


 原罪の状況は、多分に僕のせいでもあるのだが、それでも受け入れがたいものは受け入れがたいのだ。


 状況を俯瞰して客観的に見るならば、僕の存在は『ヘンタイ』そのものだ。

 他人からはそう見えてないだろう。

 しかしながら、僕自身の内心までは欺けない。


 ――ふと下を見れば、わずかに盛られた偽物の乳が存在感を示す。


 ――男としては長い黒髪が肩にやたらと触れて邪魔くさい。


 ――スカートは少し風が吹けばひらひらと揺れ、男たちが気味の悪い視線を向けてくる。


 清純で可愛らしく男を魅惑してそうな女性が一人、そこにいる。


 ――いや、……僕、……男だが?


「……あー」


 絶望をため息に乗せて吐く。

 何度も何度も、自分のなりを客観的に想起する度に嫌になってしまう。


 女性を装って女子寮に潜入。

 ラノベやエロゲなら最高のシチュかもしれないが、これはきっと地獄の始まりに違いない。


 僕には分かる。いつかきっと女子にバレて袋叩きにあうのだ。


 良い予感がなにひとつしない。

 この一歩一歩の歩みさえ、人生の終焉へカウントダウンが刻まれているかのように感じた。


 冬の終わり、暦の上の春の始まる数日前の話である。




 ■




 さて、シルリア王国には3つの学園がある。


 もしここが日本だったら「学校少なすぎじゃね日本死ね」案件だ。

 だがしかしここは異世界。

 もう愚民化政策ばっちこいのファンタジー系異世界なので、問題ない。

 民は愚かな方が支配しやすいのだよ、ハハハ。

 そんな声が聞こえるようだ。


 3つの学園には、それぞれ以下のような名前がついている。


 『シルリア王立魔法学園』

 『シルリア王立騎士学園』

 『シルリア王立学術学園』


 3つの学園は、それぞれ異なる校舎を持つわけではなく、区分けは入学時の専攻希望で分けられており、取得すべき単位が異なる。

 現代社会における、大学の学部程度の違いであると言って差し支えない。


 なお、僕が入学することになったのは魔法学園である。


 なんで? 僕、本当は騎士学園の方に入りたかったんだけど?


 まあ、一応、他の学園の単位が取れないということはないが、専門でやれないというのはなかなか悲しい。


 僕は既に魔法をある程度極めている。

 なので、魔法学園に入っても、周りの生徒とはレベルが違うのだ(イキリ)。

 もはや僕が魔法学園に入っても学ぶことがない。


 でも、僕は『聖女』という立場を与えられているため、入学時に魔法学園だけしか選べなかった。


 『聖女』――それは、『赤い満月』の上る日の夜に生まれる、『聖魔法』を扱える少女の肩書。


 そう――少女の……。


「って僕は女じゃねえええええええええ!」


 僕は泣き叫んだ。

 声変りが全然来ないので、作らなくても女の声で通用する。


「うわ、びっくりした! 何! 思春期!?」


 隣の少女が驚く。


 学園の校門前。

 人がたくさんいるのも無視して、世の中に向けて理不尽を叫ぶ。

 少女が驚いたのも無理はない。


「はあ、はあ……。あー、なんで僕はここにいるんだ……」


 髪をかきむしりながら言う。

 ちょっとカールの入った、肩にギリギリかかる程度の長髪。

 男には見えない程度に伸ばした。


 ウィッグを使うとばれると困るため、伸ばす選択は間違いではなかった。

 でも前世では短い髪にすることが多かったので、違和感は大きい。


「どうかしたの?」


「僕は本当は騎士学園の方を志望してたのに……」


「騎士学園を志望してたのに魔法学園に入れられちゃったってこと?」


「うん……。ん? 君、誰?」


「おー、やっと気づいたみたいだね! 私は【フリム・チッチ】。多分君と同じ魔法学園新入生だよ!」


「チッチ……? 聞いたことない苗字だね」


「苗字なんてたいそうなものじゃないよ。チッチ村出身なの私」


「あ、そっか」


 この国では、平民は生まれた村の名称を苗字として貰うことになっている。

 前は平民は苗字を持つことすら許されなかった。

 しかし、近年、貴族が力を失ってきており、一部の平民や商人が台頭した流れがある。

 苗字もその流れで今やだれもが持つことを許されている。

 こうやって学校にも平民が入るようになってきたのもその潮流だ。


 僕はそれはとても良いことだと思っている。

 でも、貴族の多くはこれを由々しき事態だと感じているようだ。


 しかし、やたら平民への締め付けを増したらどうなるだろうか……。

 内戦でも起きようものなら、資源や土地、人材の不足するこの世界では、それが直接人類の滅亡につながりかねない。


 そういった考えから、下級貴族を適度に処罰したり、一部の平民に教育の機会を与えたりしてうまく不満を吐き出させているのが現状だ。

 まー要するに、政治的判断ってやつ。


「えっと……その反応、もしかして君って貴族だったりするの?」


 少女がそう尋ねてくる。


「いや? 貴族じゃないよ。僕は【イリス】。よろしくね」


 僕は息を吐くように嘘をついた。

 性別も名前も肩書も嘘。

 違和感はあるが、嘘をつくのが当たり前のように、もう慣れた。


「うん。よろしくお願いします、イリスちゃん!」


「『ちゃん』……かぁ」


「?」


「何でもないよ。フリムさん、君もこれから寮に行くのかな? 荷物が多そうだけど、手伝おうか?」


「いやいや大丈夫だよ。っていうか、荷物の量で言ったら君の方が大変そうだけど」


 彼女の視線は、僕が荷車で引っ張っている荷物の方へ。


 釣られて僕の視線もそっちへ行く。

 む――そういえば僕は『お嬢様』の分の荷物も持ってたんだった。


 僕がお世話になっている公爵家令嬢様。

 彼女もまた、今日の入寮を控えている。


 後ろに引いている荷車一杯の荷物を見て、僕は「確かに重そうだな」と思った。

 実際には、僕は『魔法』を使って身体を強化しており、重くないのだが。


 だが、学園に入る前――しかも騎士ではなく魔法使いになる人間、更に女と来れば、これだけの荷物をもって平然としているのは少々変かもしれない。

 フリムの常識に合わせ、僕も荷物が重くて困ってる振りでもするか。


「あー、そうだった。重い、重い。もうダメだぁ。よし、それではじゃあね、フリムさん」


 僕は適当にか弱い少女の演技をしながら、300キロくらいの荷物を引っ張っていった。

 重いから話しかけないでほしい、的な雰囲気を醸し出しながら。


「変なの」


 という残された少女の呟きは聞かなかったことにした。




 寮に色々と運び込み、僕はベッドに飛び込む。

 1人部屋だったのが救いだ。

 ついでにベッドもふかふかだ……きっと羽毛だ。


 『聖女』になったことの恩恵の1つ――それが一人部屋でプライベートな空間を手に入れられることだ。

 日当たりが良くて超広い部屋が与えられた。

 上位貴族が使う、寮の最上階の部屋だ。


 社会経験を積むためとかいう名目で、この寮では下級貴族には特に、2人部屋が推奨されている。

 貴族の子弟はあまり良く思わないだろうけど、これはいつだかの国王が導入したルールらしい。


 部屋を見渡すが、悪い部分はない。

 シャワーがついていないのだけは残念。

 でも、この世界はお風呂の習慣はあんまりない。

 水を付けたタオルで拭いてたまに水を浴びるくらいでいいらしい。


 そう言った普通の暮らしよりも上等とは言えるだろう。


 僕はベッドで大の字になって天上を見上げる。


 あー!


 ざけんなよ!

 ばか!

 あほ!


 脳内で僕をここに送り込んだ人たちのことを罵る。

 もちろん声は出さない。


「失礼いたします」


 コンコンコン、と3回ドアを叩く音が響く。


 ベッドの上で寝転んでいると、性格きつそうな眼鏡おばさんが入ってきた。

 僕の鑑定眼から、だいたい40代くらいと見た。

 性格悪そう。


「ん……テンプレ寮母タイプ眼鏡おばさんか……」


 キリっと眼鏡おばさんの眼鏡が光る。


「何か?」


「いえいえなんでも、寮母さん」


「私は寮母ではありません。聖女イリス様」


「じゃ誰やねん」


「イリス様付きメイドの【オーブリー・ココッチオーラ】でございます」


 メイドは可愛い子だって相場で決まってるだろう――は、流石に失礼すぎるな。でも若くてかわいいチャンネーが良かったのは事実だ。


「いやそうだ。ココッチオーラ……確か、公爵家だったような」


 一応、前に王国内のそこそこ有名な貴族については学んでいる。

 特に、侯爵、公爵は当然として、僕の"元"実家であるルケ家とつながりのある貴族全般だ。


 しかし公爵家の人間がメイドに選ばれる時点で、聖女という存在の重要度が分かる。


「当家に覚えがあるようで何よりです。では本題へ入らせていただきます」


「はーい」


「聖女イリス様、この後ですが、【聖女機関】との面会予定がございます。20分後までに学園長室に訪問して下さいませ」


「その予定、知らないんだけど?」


「今、お教えした予定にございます」


「じゃ、パスで。聖女命令でぅぇーす」


「……確かにお伝え致しました。それでは失礼します」


 ぱたん、とドアが閉められる。


 ――寝よう。




 ■




 指定の時間になったころ。

 学園長室には、イリスのメイドであるオーブリーと魔法学園長【ローケル・バルベーラ】、それに【聖女機関】の若き聖職者の男【スリック司教】が来ていた。


「今回は突然の訪問に時間を作っていただき、ありがとうございます。それで……聖女は?」


 聖職者はわざとらしく、周りを見渡す。

 もちろんどこにも聖女の姿はない。

 聖職者は当然最初から気づいていたが、社交辞令として周りの者に問いかけただけだ。陰険なのだ。


「それにつきましては……彼女から。聖女付きのメイドです」


 学園長はそう言ってオーブリーに会話を投げる。


「聖女様はお休みになられています」


 メイドは深くカーテシーをしてから言った。


「お休み? 寝ているということですか? 寝ていたなら起こしてほしかったのですが。こちらとて限られた時間を割いて来ているのですから」


 聖職者の男はややきつい口調で言う。


「いえ、私がお話ししたときには起きておりました、が、延期にするとおっしゃられましたので……」


「それで、聖女を連れてくるのをあきらめた、と?」


「聖女の命を聞くのは私の役目でございますから。私の立場からすれば当然のことかと」


「……ほう。確かに聖女のお願いを聞くのは当然のことですね。しかし、お諫めするのもまた君の仕事ではないのかね?」


「それが仕事だというなら、勿論、そう致しますが……」


 聖職者の男はだんだんと重い雰囲気を纏い始めた。


 とそこで学園長が話に首を突っ込んだ。


「全く、あの聖女は……。幼少のみぎりからあなた方の下で育ったならこうはならなかっただろうに」


 学園長は聖職者の雰囲気に同調して言う。

 匠のごますりだ。

 学園長の立場など、聖教にかかれば簡単に切られる程度である。


「ええ、全くです。あなたに言ってもお門違いでしょうが……我々は本当に困っている。我々【聖女機関】からはぐれた聖女がいるなど」


「しかし……出身も不明、それこそ名前と風貌くらいしか我々も情報はない……。他国の領土で生まれた可能性もあるのでは?」


「ないとは言えませんが、考えにくいですね。これまで他国も聖女の擁立を目指していた……。それでも歴史上シルリア王国以外で聖女が見つかることはなかったのですから」


「そう、ですか。しかし、我々の立場で聖女様にあれこれ申し上げるのは難しい……。どうすれば良いでしょうか?」


「では、私が直々に向かいましょう。聖女様にはこれから機関と学園の両方のカリキュラムを3年で学んでいただく必要がある。そのややこしい立場について説明をしなければならないでしょう。……はぁ……」


 「厄介な」――と、聖職者の男は吐き捨てる。

 学園長は、男の聖女へのその言い方にギョっとする。


 聖教の教える道徳では、聖女の存在は最上位にある。

 ――それをたかがいち聖職者が足蹴にする発言をしたのだ。

 あるいは聖教の上部の者たちは、聖女よりも実質的に高い権力を持つのかもしれない。


 学園長は「怖えな聖職者、一生逆らわんとこ」と思った。




 3人はそのまま聖女イリスの部屋に向かった。

 しかしーー、


「――いない」


「こんなものがベッドの上に」


 消えた聖女――残されたメッセージ。

 その中身とは!


『僕もう精神的に疲れたから学園は辞めます(騎士学園に入れてくれるなら考え直すかも)。昔から夢だったパン屋とかそういう感じの始めますので、探さないでください』


 聖職者の若者が、グシャ……と手紙を握りつぶす音が部屋に響いた。




 ■




 この世界のパンは小麦粉を固めた硬いスナックみたいなものばかりだ。

 なので、パンに不満があるのは確かだ。

 多分、イースト菌の酵母を使う手法が確立されていないのだろう。


 しかし――別に本気でパン屋さんをはじめたかったわけではない。

 不穏なメッセージを残して部屋から消えたのはちょっとしたお茶目だ。

 僕はジョークは好きだけど、色々な人に迷惑をかけることは望まないのだ。


 聖教は嫌いなので、ちょっとした意趣返し的なもんだと思ってほしい。


 僕の目的は、学園の女子寮を抜け出し、『お嬢様』の元へ向かうことだ。


 さて――僕がこうやって学園に入学する前、しばらくの間、使用人としてご厄介になっていた家がある。


 『フィアーノ公爵家』


 僕は、その家のご令嬢【アシェリー・フィアーノ】の使用人だった。


 フィアーノ公爵家と言えば、超武闘派の騎士系貴族筆頭である。

 毎年近衛騎士団の要職に人員を送っており、国王の覚えもめでたいとのこと。


 アシェリーはその家に生まれた少女だった。

 子供の頃、行方不明になっていた彼女を助けたことが原因となって、使用人になることになったのだ。


 当時、半ばホームレスみたいなものだった僕にとって、これは渡りに船だったため、給仕とか護衛で雇って貰ったことを覚えている。


 子供の頃は可愛かったのだが、今はドSクール少女になってしまった。

 きっと教育が悪かったのだろう。

 あの家の人間は、この世界の価値観から見ても冗談みたいなスパルタ教育をしているからね。


 いつか彼女も自分の子供に同じ教育を施すのだろうか。


 筋力と魔力のおかげで今は僕の方が強いけど、戦闘技術では僕は彼女にまだまだ及ばない。


 ちなみにアシェリーは僕と同い年で、今年騎士学園に入学することになっている。

 いいなー。

 僕と変わってくれないかな?


 朝運んでいた荷物にはアシェリーの分も含まれていたため、一緒に女子寮の方に運んでおいた。

 使用人としての仕事だ。


 なお、明後日が入学式なので、僕もアシェリーもその前に入寮することに決めていた。


 今の僕は、アシェリーの迎えのため、王都の北部にある屋敷へと向かっている。

 荷物は運び込んだ。

 あとはアシェリーが無事入寮できれば問題ない。


「よっと」


 屋根から屋根へ。

 まるで忍者のように僕は王都を中央から北へと踏破していく。




 公爵家の屋敷に着く。


「お嬢様ー、帰還しましたよ」


 屋敷の窓を、コンコン、と叩きながら言う。


「あら。やっと帰ってきたわね。ちょっと遅いんじゃない?」


 アシェリーお嬢様。

 使用人としての僕の主だ。

 家族にもその設定で通しているし、実際そのようにふるまっている。


「寮で少し休んでたので、その時間でしょうかね?」


「寮ね……。あなた、本気で女子寮に入るつもりなの?」


「いや、君が言ったんだろ。「普通に女子寮入ればいいじゃない」って」


「言ってないわよそんなこと」


「うわ、平気で嘘ついた」


「証拠がないでしょ、それを私が言ったっていう」


「証拠って、……まあ無いけど。でももしここにボイスレコーダーがあったら、君の嘘はバレバレだよ?」


「"ぼいすれこーだー"? 何よそれ。新しい魔道具の話?」


「そうそう。でもまあ、無いものねだりをしてもしょうがないか。最終的に君の案を選んだのは僕だしね」


 実際、これは僕たちにとって利のあることでもある。


「でも、女の子たちに囲まれてウハウハじゃない。それって男の人の本望なんでしょ?」


「いやさー、分かんないかな? 超、居心地悪いの分からないかな? 罪悪感とか恥ずかしさとかさ……しかも、バレたら社会的に死ぬんだよ?」


 僕の場合は女子寮に男であることを隠している、確信犯だ。

 王国の何の法に違反しているかは知らないが、そこそこ重い罪になるだろう。


 勿論、社会的にも相当なペナルティを追うことになろう。


 また、この世界は科学捜査など発展しておらず、適当に色々な罪を吹っかけられて、酷いことになったりもするだろう。

 現代日本ですら往々にしてそういうことが起こるが、この世界はもっと露骨に汚職や違法捜査がされる――神奈川県警の不祥事とか、屁でもないレベルだ。


「冗談よ。あなたがそんな人だとは思ってないわ。だって――、あなたは私たちにとって、そしてこの世界にとっての『救世主』だもの」


「それも「違う」って何度も言ってるんだけどなあ」


 信頼というべきか、信望というべきか。

 彼女は僕に対してそう言った目を向けることがある。


「まあいいや。とにかくさっさと寮に行こう。準備を――」


「手伝ってくれるかしら? 使用人ちゃん?」


「はいはい」




 ■




 ――さて、異世界に来てからついに15年が経過したわけだが。


 僕がなぜ、こんな如何とも形容しがたい状態になっているのか。


 それを語るには、なんと前世にまで遡ることになる。

 当時のことはあまり語りたくないが、それでも僕のルーツの一部だ。


 話は15年前に遡る――。



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