アツイオモイ

入江 涼子

第1話 君とあたし1

 熱くなる、ココロが。

君があたしを見るたびに。

本当は口に出して、言いたいけれど。

それがなかなか、できない。

心臓が早く、動いてしまって、いつも、あたしは気を失ってしまう。

お願いだから、あたしを見ないで。

体が、心が熱くなって、どうしようもなくなってしまうから。


あたしはいつものように、うるさく鳴る目覚まし時計をばしんっと叩いて、止めた。

まぶたを開けてみれば、カーテンから、洩れている光で朝だと、気づく。

「…今日も学校か。あいつにまた、見られて、気を失うんだ」

独り言をつい、言ってしまう。

あたしにとって、あいつに会うのは、悩みの種になっている。

ため息をつきながら、起き上がり、伸びをする。

ベッドから出て、顔を洗いに行ってこようと立ち上がった。あたしは、あいつの顔を思い出しかけたけど、首を振って、脳裏から、追い出したのであった。

 顔を洗って、リビングに行こうとした。その時、制服に着替えるのを忘れていたことを思い出した。 慌てて、二階へ上がる。

階段を駆け上がると、自分の部屋に戻り、制服、セーラー服をハンガーから、ひったくるように取る。

袖を通して、すぽっとかぶるように着た。

スカートをはいて、白い靴下にスカーフを鏡を見ながら、結んだ。

今、高校二年であるあたしは、最初、このスカーフを綺麗に結ぶのが苦手だった。

最近になって、ようやく、一通り、結べるようになったのだ。

鞄の中に教科書やノート、シャーペンなどが入っているか確認する。

今日は体育の授業があるから、ジャージが入ってるかどうかも見た。

確認し終わると、鞄とジャージの入った補助鞄を持ち、下へとおりる。

「あら、おはよう。今日は珍しく、早起きね」

廊下にいたらしい母さんが声をかけてきた。

「おはよう。今日、体育があるから、目が覚めたみたい」

「朝ご飯を食べ終わったら、歯を磨きなさいね。その方がいいらしいから」

あたしはそれに、肯くと、リビングに行き、テーブルの上に並べてある朝食、トーストや目玉焼き、サラダをかき込む。

 朝食を食べ終わると、洗面所に向かい、歯磨きと顔を手早く洗い、髪をブラシですいた。

制服が濡れてしまわないように、気をつけながら、スカーフを結び直す。

壁に立てかけてあった鞄などを手に持つと、母さんがお弁当よといって、渡してくれた。

鞄の中に入れて、玄関へと向かう。

時計を見ると、七時を過ぎていた。

「行ってきます!」

「いってらっしゃい」 母さんの声に送り出されて、小走りで学校を目指した。


電車や自転車を使わなくても、徒歩で十五分の距離にある学校にあたしは通っている。

クラスは二年三組。 中学からの同級生や小学からの友達も四、五人ほどが通っていた。

では、何故、あたしがこんなに早めに登校しているのか、それには理由がある。あいつと会わないようにするためだ。

だから、寝不足になろうとも、早起きをし続けている。

おかげで、先生方からは、遅刻なしの良い生徒だとほめられたことがあった。

日直でもないのに、早めに登校するあたしをクラスメイトは、「早起きの樋口」とセンスを疑うニックネームをつけてくれたのであった。

あいつ、宮原和人はあたしと同じクラスである。

成績は中の上で、運動神経もあり、ルックスもそれなりだ。 制服も崩したりせず、きちんと着ている。

髪や瞳の色が珍しく、少し薄い。

茶色の髪と薄めの赤茶色の瞳で、顔立ちはジャニ系といえなくもない。

肌も白く、見かけは女子に間違えられそうな感じだ。

性格も明るく、気さくな奴だ。

おかげで、男子にも女子にも人気がある。

学校に着くと、校門をくぐる。

運動部の生徒がグラウンドなどにいるくらいで、人もまばらに見えるくらいだった。

静かな中で、玄関まで歩いていき、靴から、上履きにはきかえる。

廊下を進んで、二階にある教室まで向かった。

がらりと戸を開けても、人の姿はない。 ほっとしながら、自分の席にまで行って、鞄を横のフックにかけて、いすに座る。

「…あ、加奈。今日はずいぶんと早くに来たんだ」

横から、高めの可愛い声が聞こえた。

のろのろとそちらに顔を向けると、肩までつく黒のストレートと黒い大きな瞳が目を引く女子がそこに立っていた。

「美佐(みさ)。おはよう」

挨拶をしてみると、美佐は驚いたように大きな瞳をさらに、見開いた。

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