4歳から始まった

ひかり

第1話

匂い。痛さ。怖さ。感覚。眠気。

全て覚えている。たったの4歳だった私でも。

「そんなに幼い記憶、普通覚えているわけない」

沢山言われてきたけど、幼い?

4歳は、消せない記憶を作るには十分な年齢だった。

これは私が4歳の頃に突然始まり、5歳が終わるまで2年間の消せない過去の記録。

どれだけ幼くても、人には言えない現実を過ごして、一人でただ我慢する時間を生きることは出来る。ただ、その時間は20歳になった今でも私の心をボロボロにし、4歳の私のこれからの未来を変えるには十分すぎた。


夜の8時。職員はお風呂に入る時間。

それは誰もが知っているし、把握していることだった。0歳から養護施設で育った私は、集団で生きる世界で育ち、ルール、時間、順番、上下関係、そういったものに囲まれなお、それが当たり前のように理解出来る子供だった。


職員がお風呂に入り、少ししてから、中学3年生の男の子が声をかけてきた。

みなみくん。私たちは彼のことをそう呼んでいた。みなみくんは、私個人に向けて話しかけてきたのだ。

「飴ちゃんほしい?」

「えっ!欲しい!ちょうだい。」

おやつは大好きだし、飴ちゃんが貰えるなんて嬉しすぎる。嬉しかった私は、すぐに反応した。

「欲しいなら、これから俺の部屋来て。」

彼はそう言った。今私たちがいるのは1階の玄関のすぐ横にある和室。基本、寝るまでの間みんなでテレビを見る部屋だった。

当時その部屋にいたのは、私を含めた4人。

小学3年生の男の子。小学生2年生の女の子。

まだ3歳の男の子。そして、4歳の私。

飴ちゃんが貰えることに喜んでいる私と、自分たちは貰えるわけじゃない。と分かった残りの3人の子たちは、テレビにまた顔を向けた。

私はそのまま彼の背中を追いかけて、彼の部屋へと歩いていった。

彼の部屋は2階。施設の建物は外から見たら普通の一軒家。私は廊下に出て手すりを持ち階段を上った。

彼の部屋は、階段を登りきった廊下からトイレの次に近い部屋で、小学3年生の子とのふたり部屋だった。上と下が繋がってはいない2段ベットにそれぞれの机があり、窓は青色のカーテンがかかっているいかにも、男の子の部屋。という感じだった。

彼のベットは、下でベットが置かれている位置も複雑。

入り口から手前に上のベットが置かれており、下のベットは細く作られた通路を通らないとたどり着けない、入り口からは見えないようになっていた。私は彼について行き、彼のベット行った。今なら、飴ちゃんを貰うのになぜベットなのか、初めから疑問に思うことはある。でも当時の私には、そこまで理解する知識もなければ、今から飴ちゃんが貰えるという思いしかなかった。彼に誘導され、ベットに乗りただ黙って飴ちゃんを待った。

時間にしては本当に短かったと思う。彼が言った。

「舐めて」

私はよく分からなかった。よく分からない。

私の顔の目の前には、男性職員とお風呂を入った時に見える、私には無い。男の子には必ずあるものだったから。

その時には、飴ちゃんなど忘れていた。これを舐める。、、、。その言葉だけが頭の中を埋めつくしていた。すると彼は言った。

「飴ちゃん欲しいやろ?これから毎日飴ちゃんあげる。その代わり毎日俺の言うこと聞いて。それが聞けたら最後に飴ちゃんな。分かった?」

それで理解できた。飴ちゃんは貰える。

かずやくんに言われたことをしたらいい。

そして、口に出した。

「うん。」


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4歳から始まった ひかり @hikari841

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