こんなはずじゃなかった。
侯爵三女ちゃん視点。
__________
そして翌日。
なぜか、お城に行くぞと言われて準備をしたわたくしは・・・
「今日から、ここで暮らして頂きます」
「え?」
案内された離宮で、告げられた。
「では、娘を宜しくお願い致します」
と、頭を下げたパパが出口へ向かう。
「パパっ?」
「殿下の側妃になるにしろ、それよりも格の劣る愛妾になるにしろ、宮廷に入るのだから、それなりの教育を受けねばならん。
呼び止めたわたくしへ厳しい言葉を掛けて、パパは帰ってしまった。
教育係として付けられた先生は、表情の読めない顔をしてわたくしに言った。
「とりあえず、今からあなたには……言葉遣い、宮廷作法、所作、歴史などを学んでもらいます。今は付け焼刃で構いませんので、この三つだけは急ピッチで覚えて頂きます。その他のことは、進捗状況によって追々。では、早速授業を始めます」
「え?」
わたくしがきょとんとしている間に、
「なにを呆けた顔をしているのです。まずは、その立ち姿を矯正ですね。背筋を伸ばして顎を引きなさい。手は、前で揃えて」
ビシバシと指摘が飛び、背中や顔、腕に手を添えられ、体勢を変えられる。
「はい、ではこの姿勢のままキープ」
と、わたくしを真っ直ぐ立たせたまま、宮廷のマナーや歴史を聞かされ、それを暗唱させられる。疲れても、
「姿勢が崩れています」
そう言われて直される。
「い、いつまでこれをするの?」
「『いつまで続けるおつもりですか』、です」
「え?」
「いつまで、と聞かれるのでしたら、あなたができるようになるまで、でしょうか? 公爵令嬢が、何年も掛けて学んだことを、あなたは最低でも二年以内にできるようにならねばなりません。ぼやぼやしている時間はありません。就寝時間以外は、常に授業だと思ってください」
「え? ま、待って! 学園はっ?」
「行く必要はありません。むしろ、学園の方へ行っていては時間が全く足りません。侯爵邸から通う手間と時間さえ惜しいという判断ですので、確りと励んでください。あなたは、殿下の側妃になるおつもりなのでしょう?」
と、どこか冷ややかな……若干見下すような色の瞳に、
「わかったわ! やればいいんでしょ!」
イラッとして答えた。
そうよ、わたくしは殿下のお嫁さんになるんだから! と。
「『わかりました。致します』、です」
こうして、わたくしはお城で厳しい教育を受けさせられることになった。
おうちに帰りたいと言っても却下。お休みがほしいと言っても却下。体調が悪いと言えば、お医者様の診察を受けさせられて、痛み止めや胃薬を処方され、立ち姿や歩き方、姿勢の矯正、ダンスレッスンなどは短い時間になった。けれど、その代わりに座学の時間が増える。
休憩だと言って、お茶や食事の時間が合間に入るけど、それも全然休憩じゃない。
椅子への座り方から、手の動かし方、食べ物へ手を付ける順番、食べ方などなど、一々細かい指摘や注意が入って、全然美味しく食べられない。
食べ物やカトラリーの産地なんて、そんなのどうでもいいじゃない!
うちにいた頃は、こんなに口煩く指摘されることはなかったのに!
毎日毎日、それこそ朝起きた瞬間から、侍女にも指摘や注意を受ける日々。
そしてなにより・・・お城に住むことになるのだから、毎日殿下と会えると思っていたのに、全く会えない! 話が違うじゃない! なんて思っても、口には出せない。
殿下に会わせてほしいとお願いしても、
「ではまず、殿下にお会いしても失礼にならないマナーを身に付けましょう」
冷ややかにそう返される。
もうっ、なんなのよっ!?
怒っても、喚いても、誰もわたくしの言うことを聞き入れてくれない。
わたくしが殿下と会いたいときには会えないし、偶に殿下の方からわたくしに会いに来てくれても、学園にいた頃のようには自由にお話もできない。
短時間の間に、わたくしがどんな風に過ごしているのかを話しても、殿下は励ましの言葉や気遣う言葉すら言ってくれない。
「がんばるから、もっと会いに来てください!」
と、必死にお願いしても退屈そうな様子を見せる。
そんな殿下に腹が立ち、思わず言葉がキツくなって、喧嘩のようになってしまう。
学園に通っていた頃は、わたくしのことを誉めてくれたり、会話が弾んだりして楽しく過ごせていたのに・・・
殿下が会いに来てくれることが減った。
学園に行かせてくれない。
お友達に会えない。
おうちにも帰れない。
パパとママにも会えない。
お姉様達にも会えない。
寂しいって言っても、誰も聞いてくれない。
誰かとお喋りがしたい。
外に遊びに行きたい。
・・・おうちが、恋しい。
こんなはずじゃなかった。
殿下の傍にいるのは、好きな人の傍にいるのは――――もっと、楽しいものだと思ってた。
こんなに苦しい思いをしなきゃいけないなんて、思ってなかったわ・・・
そうやって、わたくしが苦しい思いをして耐えているときだった。
殿下の婚約者である公爵令嬢が、わたくしに会いに来た。
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