四百円の余りもの

星多みん

あまり物語


 春の終わりにクレーンゲームのコーナーを歩いていた。ふと、辺りを見回すと、スーツ姿は自分だけで、他の男女は若々しい格好で騒いでいた。それに気がつくと、自分は薄い劣等感を抱えて人が居なさそうな奥に足を運ぶ。


 ある程度進むと、薄暗い場所にあるクレーンゲームに目を奪われていた。


 ガラス越しの中には派手な金色に赤い文字で『福袋』と書かれており、それを見た自分は、こんな季節外れにかと思わず笑ってしまった。


 暫く宙吊りになった福袋を見つめていると、私は何となく財布から百円を取り出してクレーンゲームの中に入れる。クレーンゲームは先端に付いているカッターの刃で糸を切ると落ちるというものだった。

 きっと、この福袋は年始の売り残りか取り残された、言わば余りものだろう。そんな事を考えながらボタンを押していたせいか、見当はずれな場所に行ってしまうと、もう一度百円を入れた。


 今度は何も考えずにクレーンゲームだけに集中してボタンを押して、丁度良いところで止める。すると、福袋を見ている自分の顔がガラスに反射する。その顔は初詣終わりに彼氏に「未来がないから」と振られたのに、必死に止めた時の顔にそっくりだった。福袋は落ちなかった。


 三回目。自分は「クレーンゲームには確率があるから」と親友に言われた事を思い出しながら、残り少ない百円玉を入れると、「今度は上手くいく」と心の中で自分を励ました。でも、脳裏には先に就職した親友の蔑んだ目が浮かんでいた。親友は今頃会社で上手くやっているのだろうかと、考えながら百円玉を入れた。


 次は何も思い浮かばなかった。思い浮かぶものは全部無くなっていた。自分に余ったものは四百円の価値だった。


「たったそれだけ」


 その言葉に反応したように福袋が視界から消えると、足元で何かが落ちた音がする。自分は少し屈んで取れた福袋の中身を取り出した。

 無地のハンカチに、犬のぬいぐるみ。大きなバックに小さな鏡。そして『余り物には福がある』と書かれたシャツ。正直落胆した。四百円と貴重な就活の時間を無駄にしたと思った。


 けど、小さな鏡は私の涙を写してくれて、無地のハンカチはそれを拭いてくれた。犬のぬいぐるみは恋人が居なくなった寂しい夜を埋めて、大きなバックはこれからも使うのだろう。

何より最後にシャツに書かれてある文字で、自分は元気を貰えた気がした。

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四百円の余りもの 星多みん @hositamin

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