数珠つなぎ

こころもち

第1話 月見そば

雲一つない星空の下

コートを着て、首をすぼめている男が白い息を吐きながら、足早に帰路についている

そんな男の鼻先を何とも言えぬ香りが掠める。

香りのする方に鼻を向けると

「蕎麦か、腹も減ってるし丁度良いかな。今なんどきだい?なんてね(笑)」


『いらっしゃい!!』

店主が迎えてくれた

メニューはさほど多くない


かけそば  ¥300

月見そば  ¥450

天ぷらそば ¥600

山かけそば ¥550

財布には一万円札が一枚、五百円玉が一枚、百円にならない小銭が数枚

「月見そばを一つ」

『あいよ!』 『お待ちどう』

手際が良く、瞬く間に蕎麦が手元に届いた

湯気が立って、見ただけで体を温めてくれると分かる。

が、違和感がある。その違和感も直ぐに気付いた。

「? 店主、卵忘れてるよ」

『はい、今夜は新月なんで』

一旦間が空いた

「あっ!そういう事!?うまいですね(笑)」

ハハハハハ

長めの愛想笑い

騒ぎ立ててもしょうもない、落語の一席と思って男はそのまま【かけそば】をすすった。

それでも美味しかったし、体も温まった。

「ごちそうさま、お会計を」

五百円玉をカウンター越しに渡す。

『ありがとうございました』

お釣りの五十円玉を受け取った。

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