選択権。

Y.T

第1話

 つつは、他校の彼氏と遊んだのち、帰路に就いていた。

 半袖のブラウスにベージュ色のベスト、赤を基調としたチェックのスカートというやや明るめの一般的な夏服を着ている。放課後なのにそんな格好をしてるのは、部活をサボってまで会いたい彼氏の家が離れているからだろう。その眉上で切り揃えられた前髪や、頬の高さから首後ろへ向かう丸みのあるショートヘアも、陽菜の自由さを表している。

 おうと呼ぶには開けっぴろげなその時間の余韻に浸りながら、彼女は電車を降りて駅を出た。駅の外には歩道に沿ってタクシーが並び、それが途切れた場所からやや離れて横断歩道がある。渡る先の歩道は左右へ更に延びていた。

 陽菜の家に近いのは右の道だ。


『——分岐です。彼女が行くのは右ですか? それとも左ですか?』


 俺の視界に文字が現れる。

 答えたくない。もしも答えてしまったならば————。

 

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