サンタが町にやってきた⁈~藤ヶ丘少年団~
白兎
第1話
今年もこの季節がやって来た。待ちに待ったクリスマス。僕は毎年、四つのクリスマス会に参加している。まず一つ目は学校のクリスマス会。今年は十二月十日に体育館で『サンタが町にやって来る』という題の映画を上映するという。去年までの校長が、子供たちに夢をという趣旨で、サンタのアニメを上映していて、今年から校長が変わったが、その流れは変わらなかった。ちなみに去年までの校長は女性だった。
低学年はこの映画に、目を輝かせていたが、六年男子となると、サンタを信じる奴なんて、ただの一人を除いてはいないだろう。
「なあ吉田、サンタなんてさ、くだらないよな」
吉田と言うのは僕のことだ。
「信じる奴がいるなんてな」
なんて言っている。僕ももちろん信じてなんかいない。現実的に不可能なことだから。トナカイやソリが空を飛ぶなんて。しかも、縁もゆかりもない子供たちにプレゼントを持ってくる物好きなじいさんなんて、いるわけがない。そう思っていた。
「お前たち、サンタが来たことないのか? かわいそうに、信じることが大切なんだよ」
そんなメルヘンチックなことを言っているのは
学校のイベントがあると必ずと言っていいほど、何か問題を起こすのだ。
クリスマス会の映画が終わると、ステージにサンタが登場した。
「あれ、マッキーじゃねぇ?」
マッキーとはニックネーム。彼は六年一組の担任、
「マッキー。俺にもくれよ」
内野がニヤニヤしながら両手を差し出しておねだりすると、
「内野、俺はマッキーじゃない。サンタだ」
マッキーは付け
「マッキーサンタ。ご苦労さんだね」
僕はねぎらいの言葉をかけてやった。
「子供らしくないぞ、お前ら」
山田はそれを笑って見ていた。
騒動が起きたのは、そのあとだった。
「つまんねーぜ。いい大人がサンタの恰好なんかして。オレらガキじゃねーっつーの」
あの暴れん坊、高塚がサンタの恰好をしたマッキーを捕まえて、帽子と髭を剝ぎ取ってしまったのだ。
「おい、何をするんだ!」
マッキーはそれを
「怒るなよ。返してやるからさ」
高塚は悪びれた様子もなくそう言って、帽子と髭を投げた。
「このやろー、ふざけんなよ!」
そう言って、高塚に殴りかかろうとするのは、クラスメイトの
「やめなさい」
剛士の振り上げた腕をマッキーが止めた。
「またお前か、一組の狂犬。そんなに怒るなよ」
高塚がにやつきながら言った。これには僕もカチンときたが、殴り合いの喧嘩になって、痛い思いをしたくないので黙っていた。
「高塚! 今度こそ、ぼこぼこにしてやる!」
剛士は、もう頭に血が上って、マッキーの手を振り払い、高塚に殴りかかったが、拳が当たる、すんでのところで今度は内野がその拳を掴んで止めた。
「やめとけよ。こんなの殴ってもしかたないだろう?」
内野の言っていることは僕も納得だ。こんな奴を殴っても損をするだけだ。
「剛士、落ち着けよ」
マッキーはそう言って、剛士を
「マッキーは悔しくねーのかよ。あんなことされて」
剛士は不満たっぷりな様子でマッキーに言った。
「まあ、俺は大人だからな。子供のいたずらにいちいち腹を立てたりしない」
とマッキーは平然とした態度で、まったく気にしていない様子だった。
「おれは、あいつをぶん殴らねーと気が済まない」
それでも剛士は拳を握り締めて悔しそうにしている。そもそも、
「それは聞き捨てならないな」
マッキーは体裁を守るかのように言ったが、剛士の気持ちが嬉しかったのか、口元は少し緩んでいた。
この騒動を聞きつけて、三組の担任、
「すみません、牧田先生。またうちの高塚が何かしたそうで……」
この担任教師は、去年新任として教師になったばかりで、いつも自信なさげにしていて、問題が起こるとおどおどしている。まあ、あの高塚がいるのだから、不運としか言いようがない。この新任教師、年齢は知らないが、たぶん、二十代前半だろう。六年女子からは『亜紀先生』とお姉さんのように慕われている。しかし、先ほども言ったように、頼りにはならないため、六年男子にはあてにされていない。今だって、こうして謝るだけでどうしたらいいのか分からないのだから。
「いや、大したことじゃないんですよ」
とマッキーは言って笑ったが、新任教師は済まなそうに、すみませんと何度も言って謝っている。それから、高塚の方を向いて声をかけたが、
「高塚君。ちょっと来なさい。あっ、こら、待ちなさい!」
高塚は子分の二人を連れて、どさくさに紛れて、とんずらしてしまった。
「本当にすみませんでした。あとで叱っておきますので」
新任教師はまた、頭を下げて何度も謝っている。気の毒で見ていられない。
そんな騒動で、会は白けた雰囲気のまま、尻つぼみで終わってしまった。
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