可哀想な女

ねがきゅーと

かわいそうな女

 かわいそうな女——幼い頃の私は彼女を一目見て、そう感じた。


 そのとき七歳だった私は、両親に連れられて行った家族旅行の帰り道、家の近くのレストランで昼休憩をしていた。食事を終えて退屈になった私は、何気無く後ろを振り返った。すると、窓際でひとり俯きながら食事する、見ず知らずの彼女が目に入った。


 そのとき見た彼女の姿を、今はもう、はっきりと思い出せない。薄い化粧に、あまり整えられていない黒髪。服は赤だか、茶色だかのダウンベストを着ていた気がするが、覚えてない。角度的に顔は見えなかったが、時折ティッシュで鼻を啜っていた。そんな彼女の姿を見て、「かわいそう」と感じたことだけ、はっきりと覚えているのだ。


 改めて考えれば、彼女の実情を何も知らない癖に、私はなぜそんな気持ちになったのだろう。見るからに幸薄い女性に、憐れみや侮蔑の気持ちを抱いた訳ではない。彼女がひとりでいることが、どうしようもなく当時の私は辛かった。それは、私たちと一緒に食べよう、と誘って来ようか、迷うほどに。只々、私は彼女をひとりにしたくなかったのだ。


 きっと今でも彼女はひとりでいるのだ。私が毎日独りでランチをしているように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

可哀想な女 ねがきゅーと @Nega_Cute

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ