大丈夫、誰にも言ってない
ねがきゅーと
誰にも言ってないからね
明日の朝になったらきっと、TVでは顔写真と共に、僕の名前が報道されるだろう。だから、今夜のうちに必要なものは全て、リュックサックに詰め込んでおかなければならない。
そう自分に言い聞かせて押入れを開けた時、ガチャリと母が部屋に入ってきた。
「だから、ノックしてってば。」
溜息混じりにこちらがぼやくと、母親は、着替え要るでしょ、と毛玉のついたTシャツを置くと、部屋から出て行った。もうこの家に帰ることは無い。そう思うと、築四十五年の3DKも、ノックをしない母親も、この毛玉だらけの洋服も、不思議と苛立つことは無かった。
「一応持っていくか。」
母が置いた着替えを適当に掴むと、ティッシュの包みが、静かに膝の上に落ちた。中を開くと、そこには折り畳まれた万札が五枚重なっていた。
この計画を母は知らない。なのにどうして。呆然と虚空を眺めていると、部屋の外から、買い物に行ってくる、と言い残して、母親が家を出て行く音がした。
もうどこの店も閉まっているだろうに。出掛けた母の声が震えていたことに気付いた時、自分の罪に絶望した。同時に、壁掛けの古びた時計は、深夜0時を超えていた。
大丈夫、誰にも言ってない ねがきゅーと @Nega_Cute
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