第9話 猫が最期に見る景色

猫たちとミカを前にして、クウは言った。

「私は見える。見えるぞ。ブッダとなったお前たちの未来が。ブッダとなったタマの未来世が、シロの未来世が、クロの未来世が、ミカの未来世が、ここにいる皆の未来世が。それだけだはない。お前たちの弟子たちがブッタとなった未来世が。その弟子たちがブッダとなった未来世が。生きとし生けるもののすべてがブッダとなった未来世が。

 ああ、なんということだ…。

 お前たちには分かるだろうか?私たちは、すべては繋がっているのだ。ただひとつの存在、すなわち真我に。

 ただひとつの存在の前では、私たちのすべてがその存在の無限の分身なのだ。これこそが真のワンネス。わたしたちは本来ひとつなのだ。そして、ブッダがブッダに語るもの。これが真のブッダの教えなのだ」

 ミカと猫たちは、何も言わず、ただ、光の中でクウを見ていた。

「友たちよ。旅立つ時がきた。わたしは行かなければならない」と思いを正してクウが言った。

「クウ!どこへいくの!?」とミカが言った。

「ただひとつの存在のもとへ。すべての源へ。ミカよ、覚えているだろうか?私が以前、『Nothing is Everything』について話したことを」

「ええ、覚えているわ」とミカは答えた。

「それは、私たちすべてについても言えるのだ。あらゆる生命が存在していると同時に、何も存在していない。私がこれから入る場所ではそれが見えるはずだ。私たちのすべてのストーリーが終わっているとともに、まだ何も始まっていないことが。新たに生じるものなど何もないことが。また、そこでは、すべては始まる前に帰すのだ。真に“何もないこと”を知るただひとつの存在さえも」

「クウ!行かないで!」

「安心せよ。私はいつもお前たちのそばにいる。迷ったときは心の中の私に問うがいい。必ずや道が開けよう」

「クウ…」

「それでは、さらばだ。いずれまたどこかで会おう」

 クウは息を引き取った。


先ほどまで彼らを包んでいた光はすでに消え失せていた。

気が付けば、冬の短い陽は沈み、あたりには街灯が灯り始めていた。

空にはいつの間にか粉雪が舞い始めていた。雪はすっかり冷たくなったクウの体を白く包み始めていた。

 ミカは肩や頭に積もり始めた雪を振り払うことなく、呆然としてその場に座り込んでいた。それは猫たちも同じだった。

 彼らは時がたつのも忘れて、いつまでもそこに佇んでいた。

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