ゲームの「魔王」にいつの間にか転生してたので運命に抗います。
なつふゆ
1話目 魔王に転生
《あなたは1000万人のうち1人しか得られない「転生」のチャンスを得ました。》
「は?」
間抜けな声が響き渡る。
ここ、どこ?
私の周りには闇が広がっていた。足元には道があり、いくつかに枝分かれしている。
よく見れば枝分かれしている道の最初らへんに看板がそれぞれたっている。
《天国と地獄どちらかに逝く、または転生をする道を神が選ぶところです。》
私の問いに答えるように声が言った。
天国?地獄?逝く?
「もしかして……私死んだ?」
《はい》
即答される。
ここまで即答されると、ただでさえ現実味がないのに更に現実味がなくなる。
夢?とも思ったが、声に否定された。現実らしい。
とにかく、私はなぜ死んだ?目をつぶり、思い出す。
───────
「叶愛ー。今日暇ー?」
帰り学活後、親友に話しかけられた。
私の名前は
「勉強しないとだから、暇じゃない。留学したらヤバいし。」
私がそっぽを向くと、親友が飛びついてきた。
「今日くらい休んでよー!あそこ行きたいんだよねー。」
「あそこ?」
私は首を傾げた。
「ふふっ。来て来て!」
「え、どこ行くの?勉強……。」
そのまま私は引きずられるような状態で親友と学校を出た。
親友は運動神経の良さで大学に推薦合格した人だ。「行きたいところ」嫌な予感しかしない。
───────
「い、いつまで歩くの……。」
「えー。もう疲れたの?あとちょっとだから頑張って!」
「ちょっとってどのくらいよ………。」
ぜえぜえと肩で息をする私と隣で呼吸を全く乱していない親友。運動神経の違いが見て分かる。重い荷物もあるのになんでそんなピンピンしてるの………。
今私達は山の中。嫌な予感を感じつつも親友についていくと、案の定、いつの間にか山に入っていた。運動神経ヤバい友達ができると、こんなことになるんだなぁ。私はそう身をもって知った。
上がり続ける呼吸を無視し、数分後。
「着いたよ!山頂!」
そんな親友の声で下に向けていた頭を上げた。
「わぁ………。」
建物が小さい。人の姿なんて小さすぎて見えない。どこまでも続く綺麗な空がいつもよりキラキラして見えた。
「ねっねっ綺麗でしょ?!綺麗でしょ!叶愛!」
「うるさい。その声のせいで雰囲気が台無しになった!」
頬を膨らます。
「ごめ!」
両手を合わせてウインクした親友。うん。全く反省していない。
ため息をつき、山頂の奥まで行こうと足を進めていたその時。
「叶愛!そこ、崖!」
私の足が空を切った。
ガクン、と体が傾く。
直後、私の体が反対になり、ジェットコースターに乗っているかのような浮遊感に襲われた。
その時私が見た景色は、山の半分の断面だった。
あ、崖だ。
景色が変わる、変わる。落ちている、と理解したときには地面がはっきりと見えていた。
「きゃああっ─────」
悲鳴の途中で体にすごい衝撃がきた。
その瞬間、私の視界は真っ暗になった。
───────
「────落下死、ねぇ。」
今までのことを思い出した私は、驚くほど冷静だった。もう死んでいるんだから後悔しても仕方がない、とでも思ったのだろうか。
《話を続けてもよろしいですか?》
焦らしたように声が言った。待っていてくれたのだろうか。
「いいよ」
《では、これから異世界に転生します。なにに転生するかを決めるため、どれかにタップしてください。》
声が言うと共に、私の前にモニターが姿を現した。モニターには文字が複数書かれている。どうやら転生したいものにタップして転生するらしい。結構転生するのって簡単だな。「異世界」という単語に胸が踊る。
どれにしよう。
『勇者
魔王
冒険者
一般人
貴族
浪人
犬』
モニターにはそうかいてあった。すでに論外がいくつかある。
一般人は……せっかく異世界に転生したのになぁ、って感じだから論外。
浪人は却下。
犬!犬って……ちゃんと理性も転生したときついてきてくれるよね?理性があったとしても論外。犬は無理。
残った『勇者 魔王 冒険者 貴族』。
勇者……惹かれるなぁ。よしっ、勇者にしよう!
「勇者」を押そうと手を伸ばす。
指先がモニターに触れる直前、一瞬腕の力が抜けた。「勇者」と「魔王」の真ん中に指が触れる。
それで反応してしまったのか、ヒュンッとモニターが消えた。
《魔王に転生するのですね。完了です。》
「えっちょっちょっと待って!」
このままじゃ魔王に転生してしまう!
私の焦りの言葉は聞こえてないのだろう。声は《準備中………》という言葉を繰り返している。
《準備が完了しました。これから転生します。》
「ちょっと待ってって……。」
《転生開始》
体が光りだす。眩しさで私は思わず目をつぶった。
───────
ぼやっと視界が開かれた。女性たちの声が聞こえる。
「産まれましたよ!双子です!」
「産まれたの?!私の子が…!」
「はい!───あれ?この子の脇腹に痣が────」
「痣って……魔王の痣ですか?!」
「───そ、そうみたいです。」
「何ということ……そんな子いらないわ!」
「……とにかくこの子は私が預かります。」
「私の本当の子はこの子ね!」
ベットに横になっている女性が泣き声を上げ続ける一人を抱きしめる。それと同時に私の体は浮き上がった。後ろから持ち上げられたようだ。顔を動かして私を持ち上げた人の方を向く。
白い服を着た女性だった。
ここは…病院?そして私は…下を向く。小さくて可愛らしい足が宙に浮いていた。
あ、転生したのか。結構すんなり納得した。「転生する」と言われていたから、そこまで驚きはない。勉強の合間合間に現実逃避のつもりでファンタジー小説を読んだり、ゲームをしまくったからだろうか。
「さあ。行きましょうか。」
白い服を着た助産師らしき女性がそう言って出口へと歩き出した。
この展開、あのゲームの展開と似ている。私がもう何周プレイしたか分からないゲーム『The miracle journey continues』みたい。確かあのゲームでは、勇者と魔王が双子として産まれるんだよね。でも魔王には「魔王の痣」があったから産まれてすぐ殺されそうになる。そこでまだ歩けもしない赤ちゃんなのに闇の力を無意識に放って病院を爆破してしまう、っていう展開。その時、魔王が爆破の中生き残るのは当たり前だけど、奇跡的に主人公ともう一人だけ生き残るんだ。
一人、あのゲームの妄想に浸る。
「魔王破滅隊様。ファルド様。」
待合室まで来たところで助産師が口を開いた。
ファルド……!懐かしいっ!こいつは病院の爆破の中生き残った一人でもあり、魔王を嫌う人たちがつくった隊、「魔王破滅隊」の隊長でもある。魔王と
………ってあれ?こんなに設定が被ることある?
───もしかして異世界ってゲームの世界ということか?!
そう考えたら、そうとしか思えなくなる。
知っているゲームであったことは幸いだったが、「魔王」だなんて………。
私、いつか主人公に殺されるのか…。
「おう。なんだ。その赤子がどうかしたのか?」
病院の待合室にある椅子に堂々と座っている魔王破滅隊隊長、ファルド。
熊のように大きな体と鋭い目つき。重いオーラを纏っている。
「見てください。これを。」
助産師がそう言って私の体を包んでいた布を少しだけめくった。左脇腹にある龍の形をした魔王の痣が浮き彫りになる。
ちなみに「魔王の痣」とは、魔王の力を受け継いだ者に浮かぶもの。初代の魔王が強すぎて、殺しても魔王の力だけは残ってしまい、今でも赤ちゃんなどに魔王の力が受け継がれてしまうとか。痣が濃いほど魔王の力を受け継いでいる、ということなのだが……私の痣はかなり濃い。全能力受け継いでいるんじゃないか、とも思う。
ファルドの顔色が変わった。見てわかるほどだ。
「魔王の痣か…!!」
乱暴に私の体を掴んで引き寄せてきたファルド。やめろ、と抗議しようと思ったけど、口から出てきたのは
「あう〜〜」
という可愛らしい声だった。
「こいつは…これからどうなる?」
「今日か明日中に殺されるでしょう。」
このゲームの助産師、怖すぎ…!
とにかく、逃げろ!
「
ちゃんとしか言葉にはなっていないが、ファルドの胸に手をあて闇の呪文を唱える。私がこれから魔王になる存在なら、こんな年でも魔法を使えるはずだ!
「な、んだ、これは……。」
崩れるようにしてファルドが倒れる。意識がなくなったようだ。
「きゃあっ!ファルド様?!」
助産師がファルドに駆け寄る。
よし、魔法は使えるみたいだな。しかも結構高度な魔法を産まれたてで使えるとは………。
今更ながら魔王の凄さを実感する。
ちなみに今の魔法は意識を奪い、部分的ではあるが、記憶をなくせる魔法だ。魔王との戦いの時にこの魔法を使われると、記憶をなくすことはないが、かなり高確率で気絶してしまう。4ターンに1回ほどの率で使ってきて、その度に一人で舌打ちをしていたのだが……魔王視点になるといいな。これ。記憶をなくせるのは結構逃げるときに便利だ。触れないと発動しないところが難点だけど。
さて、これからどうしよう。展開通りに進むのはなんだか癪だから病院をぶっ壊すのはやめて……「逃走」。
そうだ!逃走しよう!
「
召喚呪文を唱える。地面から真っ黒な馬が飛び出してきた。
おお……やっぱりこいつが出てくるか……。私本当に魔王なんだな……。
この馬は魔王の相棒とも言われていた馬、「ヴェラディー」だ。魔王の名前「ヴェラディン」からとったと言われている。
まだ上手く歩けない私には馬というものはとても助かる。
それにしてもでかい。普通の馬の3倍くらいの大きさだ。どうやって乗れば……。そんな私の思いを察知したのか、ヴェラディーが足で私を宙に投げ、背中でキャッチした。
そのまま走り出す。振り落とされそうなので闇の縄をヴェラディーに巻いてしがみつく。
「呪いの子!逃げてもそんな体じゃすぐ死ぬぞ!」
助産師が口調を変えて私に罵声を浴びせた。急にキャラ変わったなぁ。「呪いの子」ねぇ。魔王の痣がある子供たちの名称だっけ。
(もう少し速く走れる?ヴェラディー)
目を閉じてヴェラディーに話しかける。
「ヒヒーン」
ヴェラディーはそう返事をして速度を上げた。風のように速い。落ちたら確実に死ぬ。病院を出た。外は真っ暗だ。
こうして、私の第二の人生が闇に包まれ始まった。
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