第7話:陽菜の夢。

陽菜はハルと手をつないで、ふたり街中を飛んでいた。

見たことのない光景、華やかな街、賑わう人並み。

いつもとはちょっと違う世界だった。


建物は同じだったがカラフルで華やかな飾りがたくさんほどこしてあった。

不思議なことに、すれ違う人はみんな猫の顔をしていた。

あきらかに自分の住む世界とは違っている。


第一、ハルと宙を飛んでること自体信じられなかった。


「なんで私たち、普通に飛んでるの?」

「ハル、ここって?」


ハルが言った。


「これからいいところへ連れて行ってあげる」


「こんな場所見たことない」


「パラレルワールドだよ」

「ここは僕が生まれた街」

「そして、この世界に住む人たちは全部、猫なんだ」


「さあ、しっかり捕まっててね」

「ちょっと飛ばすよ・・・」


そう言ってハルは少しだけスピードをあげた。


「ちょ、ちょっと〜怖いよ」


「大丈夫だよ、しっかり僕に捕まってて・・・絶対離さないから」


「でも・・・でも、でもなんでこんな所にいるの、私たち」


「僕が陽菜を連れてきたからだよ」

「この世には、いろんな世界が存在するんだ」

「その中のひとつが陽菜の住む世界で、また別の僕が生まれた世界があるんだ」


「そうなんだ・・・でも人間の世界とはずいぶん違うんだね」


「それぞれの世界には、それぞれの個性があるんだよ」


「あ、でもこの桜並木」


ちょうど桜の花が満開だった。

それは陽菜が子供の頃からずっと見てきた光景だった。

その桜並木に気をとられてると公園に突き当たった。

そして公園の中央の噴水の前でふたりは降り立った。


「この公園でハルと出会ったんだよ」

「この公園のどこかに陽菜と僕の世界をつなぐ次元トンネルがあるのかもね」


陽菜はハルに連れられて噴水をぐるっと回って公園を出た。

公園を出ると、そこからまっすぐに始まる道の一番右脇に、こじんまりした

お店があった。


陽菜には見覚えのある店だった。

そう自分の家だったからだ。


ハルは陽菜にお店にかかった看板を見るよう、その方向を指差した。

ハルに促されて看板を見上げると、そこには 「猫のパン屋さん」と書かれて

あった。


「え〜、あれって?」


「そう、僕と陽菜のお店」


「まじで?・・いつの間に?」


「だって、ハル・・・?」

「どうなってるの?」


そう言いながら陽菜は、店の中をそっと覗いてみた。

中には嬉しそう笑いあってる女性と猫の顔をした男性の姿。


それはまぎれもなく自分とパン屋さんの帽子をかぶったハルだった。


「うそ・・・まじで、なにこれ、どうなってるの?」


思わず陽菜は叫んでいた。


「ハル教えて!!・・・これはなに?」


そこで、陽菜は目を覚ました。

そして目を開けたまま・・・・しばらく考えをまとめた。


「あ、夢だったんだ・・・」


体を起こした陽菜はがっくりと肩を落とした。


「そうだよね・・・」


現実だったらどんなに、よかったか・・・


「そんな夢みたいなこと、あるはずないよね」

「でも、本当はああいう世界があってハルはそういう世界から来たのかも・・・ 」 「あ〜あ、いっそ夢じゃなかったらよかったのに・・・」


夢の中とはいえ自分ちのお店の名前が「猫のパン屋さん」だったことが

陽菜には不思議と気になった。

朝、ハルと「おはよう」の挨拶をしたが、とくになにもなく、その日もいたって

普段と変わらない日常のはじまりだった。


つづく。

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