第30話 幸田さんとゾーイさん

体は治った。この医療室に居るのは、検査・研究の為であり、軟禁されている状態だ。何か幸樹こうき達と連絡が取れる手段はないものか。そう考えていると、幸田こうださんがやってきた。

「いやー、おはよう!良く寝れた?」

相変わらず、いつも元気な人だ。

「あっ幸田こうださん、おはようございます。」

「それでね」としゃべりたい事があるのか、急いで隣に置いてあった椅子に座った。この人はとにかくしゃべる事、人とコミュニケーションをとる事が好きなんだと改めて感じた。

「聞いてる?」

また考え事をしてしまった。自分が若い時、仕事に集中していると周りの視野が狭くなり、注意された事があった。この世界に来てから、若い時の感覚に近くなっている気がする。「すみません」と幸田こうださんに頭を下げる。

「それでね、今日は佐藤さとうさんと一緒に外出のお誘いをしようと」

魔法を使った時、中庭に出たぐらいで、外の風景は見ていない。部屋には窓がついていたが、中庭しか見えていなかった。おそらく、あまり周りを見せたくない隔離した空間なんだろう。

「ありがとうございます、宜しくお願い致します。・・・すみません、幸田こうださん、ひとつお願いがあるのですが・・・」

「なになに?自分が出来る事なら、何でも言って!」

「隣の国なんですが、世話になった人に安否の連絡を取りたいのですが・・・」

あんなにおしゃべりな幸田こうださんが黙ってしまった。自分は、聞いていい事の判断を誤った様だ。

「・・・ここから、正直に話してもらいたい。君は、隣国でどう過ごしたか。」

もう話しを切り出した手前、正直に今まであった事を全部話してしまおう。村が転移した事、息子や村の人が拉致された事、自分は助けられた事、助けた人達が他種族軍だった事、活動家軍の基地に向かう途中、敵に遭遇してしまった事、逃げれなくなり、亡命した事、ただ、妻の事は話さない方が良さそうだ。

幸田こうださんは黙って、自分の話しを聞き、考えている様だった。

少し考え「よし」そう言って、椅子から立ち上がる幸田こうださん。

「今日の予定は、町の案内と、教会に行くだけだったけど、予定を変更しよう。夜になったら、食事会に参加して欲しい。メンバーは私と妻、それと、佐藤さとうさんはリンデンで初めて会った日本人の兵士の人は覚えている?あの人、勝則かつのりさんと言うんだけど、勝則かつのりさんと奥さん、それと、もう何人くるか分からないけど、リンデンの上の人が参加すると思う。これから話してくるから、町の案内には、妻にお願いしてくるので、ちょっと待ってて。」

やはり、自分の話しは上に通さないといけない事になった様だ。不安が募るが、幸田こうださんは「それじゃ」と颯爽と出て行った。もうなる様にしかならない、幸田こうださんの奥様が案内してくれるとの事だったので、それまで横になっていよう。


しばらく経ち、「おはようございます。」と女性の声が聞こえた。来た人は、欧米系の顔立ちをしており、どうやら外国の方で、巻き込まれて転移した様だった。名前は幸田こうだゾーイさん。苗字は幸田こうだを名乗っているとの事。「日本語上手ですね」と話すと、転移した時、幸田こうださんとの出会い、リンデンに来るまでを話してくれた。


1999年、ゾーイさんは、街の小学校で臨時の英語教員として働いていたという。その日も小学校に向かう途中、転移したそうだ。その後は自分の時と同じ様に、拉致・誘拐されそうになり、ゾーイさんは逃げた。その時、一緒に逃げたのが幸田こうださん達だったそうだ。途中、幸田こうださんの父と逸れたり、少しずつ仲間も減りながらも、それでも逃げた。森に逃げ込んだ時、魔獣に襲われ、皆殺されると思った時、オーガ達が助けてくれて、その後も色々と世話をしてくれたとの事。そのオーガ達が、リンデンの方を指示するので行ってみたら、亡命する事ができ、今がある。


オーガ族が出てきたが、心優しい種族なのだと改めて思った。ただ、今の話しだとオーガ達はリンデンを知っている様な感じだったな。


「話し長くなっちゃいましたね、それでは町に行ってみましょうか。」


ゾーイさんと一緒に町へ行く。

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