第27話 追跡戦闘

フォージ=カイルの副官であるナードは、森から平地に抜けた際、車を見つける。奴隷が動かしていると思われる。あの村から逃げた人間か、それとも活動家軍か、どちらにしろ連行する必要がある。馬とアリクイの中間の様な、騎乗動物クーに鞭を入れ、並走した兵士に声をかける。

「*********(敵がいたぞ!捕まえろ!)」


こちらの車は大型のワゴン、1.5tのトラック、軽トラの三台で走っており、ワゴンにはアリーサ・香織かおりちゃん、トラックには、幸樹こうき健一けんいち君、軽トラには自分一人で乗っている。幸樹こうきが固有魔法(アンプ)を使い、皆に指示してくる。

あの楽器のアンプ替わりに使っていた役に立たない魔法は、相手を指定して指示を伝える等、そんな事も出来るのかと驚くほど、汎用性に富み、通信手段としても優れている。

「お前ら、まくぞ!アクセル踏み込め!」

アリーサ達が乗っているワゴンを先頭に、三台の車は一気に加速する。


そのスピードを見て、ナードは「やっぱり軍に採用するべきだ。」と思いながら、周りに激を飛ばしながら、加速する。狙うは一番後ろを走っている小さめな車だ。


公彦きみひこ、飛ばせ!食いつかれるぞ!」

ガタガタ揺れる車内で、必死にアクセルを踏んでいるが、相手の方が早く追いつかれそうだ。サイドミラーにもちらちらと相手の姿が見える。


「*********(投槍!放て!)」

幌の部分に刺さるが、車はよろけるだけでスピードは止まらない。乗っている奴を止めた方が早そうだ。

「*********(俺が前に行き、あれを運転しているのを止める!お前らは可能な限り、全力でついてこい!)」

「*********(了解しました!お気をつけて!)」

クーに鞭を入れると、さらに加速し、必死に走っている軽トラに並ぶ。


後ろが大きな音がして、一瞬ハンドル操作を誤った。おそらく攻撃を受けたと思われる。くそっ!一騎がさらに加速してきた。速ぇよ!助手席の窓から、相手の姿が見えたと同時に頭を下げる。でかい音と共に、頭上に槍が通った。相手の投げた槍が助手席の窓から貫通してきたのだ。

やばい!

相手がイラ立つ顔をして、今度はこっちに手を向けている。


俺の槍を避けられた事がありえない。日本人は、鈍くさく、あんな反応は出来ない。偶々かもしれないが、むかつく奴隷だ。次は魔法をぶち込んで、消し炭にしてやる。捕虜は前の車のやつを捕えればいい。

「×××××××××」

魔法を放とうとした次の瞬間、すぐ後ろから大声が聞こえた。


幸樹こうきは助手席の窓から身を乗り出して、後ろを見ている。運転している健一けんいちが不安そうに辺りを見回しながら、前のワゴンについていく。

軽トラの横につき、攻撃している兵士を見て、慌ててアリーサに指示を出す。

「アリーサ、公彦きみひこがやばい!軽トラの横に付かれてる!俺が合図をしたら、魔法を使ってアイツを吹っ飛ばしてくれ!」

アンプであの兵士のすぐ後ろから声が出る様に設定した。

やばい、あいつ魔法を使おうとしている。

いや、こっちが先だ!

「*********(死ねぇぇぇぇぇぇぇえ!)」


なんだ!「死ね」と大声が聞こえ、すぐ後ろを振り返るが、後ろにいるのは少し遅れている兵士達。その瞬間、自分に強い風がぶつかる。こいつら、魔法を使ってやがる。活動家軍だ!バランスを崩し、落馬しそうになった瞬間、車が目の前に迫っていた。


急に兵士がバランスを崩したと思った・・・・あっ・・・焦ってハンドル操作を誤ったら、大きな音が立った。

兵士の上半身が車のフロントにぶつかった。前方に少し浮いた兵士をそのまま轢いてしまった。ドゴッと嫌な感触が伝わった。自分が殺されそうだったが、人を引いたのは初めてであり、嫌な感触だった。


ナード様が魔法を放とうとした瞬間、こちらを振り返った。焦っていた顔をしていた。その時、急にバランスを崩し、車とぶつかって、轢かれた。動かないナード様を一瞬で追い越す。ほんの少しだけ放心状態だったが、すぐに意識を戻し、周りに指示する。

「*********(お前とお前はナード様の安否を!他はアイツらを全員殺すぞ!)」

一瞬の姿だったが、明らかにナード様の首は曲がらない方向に曲がっていた。

あぁ・・・・

こいつら全員殺してやる!手を軽トラに向け、炎の魔法を放つ。

「×××××××××」


軽トラの帆が炎に包まれた。

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