第9話 隠遁の魔女

内容が内容なだけに自分が落ち着くまで、待ってくれる幸樹こうき

その気遣いがありがたい。


幸樹こうき、お前が助けてくれたんだな・・・ありがとうな。」

「正確には俺と奥さんだけどな。・・・よし!自慢の奥さんを紹介してやろう。」

そう言うと奥の部屋へ「*******(おーい、ちょっと来て!)」と声をかける。奥から、長身で腰まで長い髪、肌の白い美しい若い女性が入ってくる。身体的特徴として、耳が尖っていた。

「エルフ・・・だ。」

現実感のない、何て綺麗な・・・

「やっぱ!そうなるよな。エルフだぞ!男の夢だぞ!」

エルフが幸樹こうきの隣に並ぶ。

「紹介しよう、妻のアリーサだ!200歳以上の年の差カップルだけどな!はっはっうぐぅ」

「余計な事を言うな」という感じで、アリーサは幸樹の脇腹に肘で小突く。

「初めまして、私はアリーサ。種族は言っていた通りエルフよ。で、この馬鹿の妻。」

「あ・・・日本語しゃべれるんですか?」

「そう、これに教えてもらったの。愛した人の言葉だしね。」

「そうですか・・・このたびは、助けて頂きまして、ありがとうございました。佐藤公彦さとうきみひこって言います。」

幸樹こうきはアリーサの腰に手をまわし、

「あーいいってことよ。別件で行ったついでだったし。」

「・・・すまんが、他の生存者は?」

スキンシップをしてくる幸樹こうきを突き放し、アリーサは

「ごめんなさい。あなた以外は分からなかったわ。もしかしたら、どこかに隠れてた人はいたかも知れないけれど。・・・兵隊がすぐに戻ってきちゃって・・・」

「いや・・・すみません。」

「まあ、アリーサなら一人や二人、簡単に片づけられるんだけど・・・さすがに集団だと・・・な。」

あいつらを数人相手だったら、戦えるだけの力を持っているという事か。


「おい、公彦きみひこうちの奥さんすげーんだぞ!隠遁いんとんの魔女って世間では有名な・・」

隠遁いんとんって、なんなの?私、引きこもりじゃないし。」

「まぁいいじゃん、でだ、隠遁いんとんの魔女の研究している分野が・・」

「また引きこもりって言ったー。このちびっ子親父!」

何か、イチャイチャし始めて、イラっとするな。


「・・・すまん。それでな、アリーサの研究っていうのが、人体の回復・拡張なんだ。」

アリーサが公彦きみひこの手を握る。

公彦きみひこ、失った足を戻す事は出来ないの。ごめんさい。でもね、義足をつける事は出来ると思うの。どうする?」

皆を探しに行けるなら、即答だ!

「お願いします。」

「分かったわ。その義足なんだけど・・・魔力が必要になるの。」

んっという事は魔力がないと使えない?

説明を幸樹こうきが引き継ぐ。

「まず間違いなく、お前には魔力がない。連れてこられた日本人は皆、魔力が存在しない世界だったからな。だから魔力を使うには手術が必要になる。というか、魔力のない日本人しか出来ない手術なんよ。」

そういうと、幸樹こうきが上着を脱ぎだす。


!!!


ひどい傷跡が体中にある。それに、おっさんなのにすごい体をしている。この世界の過酷さを改めて痛感する。


幸樹こうきが後ろを向くと、腰の辺りに大きな魔法陣の様な入れ墨があった。

アリーサは、幸樹こうきの腰を指さし

「手術なんだけど、体内に魔力を増幅する石をいれるの。それから、腰の部分に魔法陣の入れ墨を入れる。そうすると、腰の部分に魔石を入れた袋などをぶら下げて置けば、魔力が発動できる様になり、魔法なども打てる様になる。ただ、魔法の強さは、魔石次第なんだけどね。」

「魔石?」

「魔獣が体内に持っている石。だいたいの魔獣は心臓近くに魔石あるね。」

上着を着なおした幸樹こうきが、

「で・・どうする?」

当然即答。断る理由はない。

「全て受け入れる。お願いします!」


細い細い糸だけど、何とか皆を助けられる望みは繋がったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る