第78話「ルシオラの悩み」
ルシオラたちはそんなに体力がないようなのでひと休みする。
「ご、こめんなさい。いっしょに探索したいと言ったのに、足手まといになってしまって」
ふたりともすごい申し訳なさそうに謝った。
「大丈夫ですよ。性別的には男のほうが有利でしょうから」
探索してる人同士なら、性別の差はやっぱり出てしまうんだろう。
「それにしてもやっぱりすごいですね」
とルシオラに言われるがピンと来ない。
「そうなんでしょうか。何分他人と探索した経験がないので、よくわからないんですよ」
と俺は答える。
クーやエリとダンジョン内を散歩したことならあるんだけど、あれを探索とは言わないだろう。
「ついていくのは大変でしょうからね。浅はかでした」
ルシオラがすっかり落ち込んでしまって、どうすればいいのかわかんない。
困ってクーをちらっと見たが、「思い知ったか」と言いたそうな顔をしている。
これじゃあ俺が期待する言葉なんて出てこないな。
「これから強くなればいいのでは?」
仕方なく女子に言うことじゃないよな、と思いながら自分で言ってみる。
「これから、ですか」
「ええ」
俺自身、クーやエリにすこしずつ強くなっていけばいいと言われて育ってきたんだ。
「誰だって最初から強くないですよ。すこしずつできればいいんです」
ちらっと見たらクーは珍しく空気を読んで黙っている。
「わたしはもとから強い」なんて言われたら台無しだからよかった。
ルシオラと撮影係のふたりはときどきクーを見ているけど、何の質問もしてこない。
こいつのことを説明するのはとても難しいから、ありがたい配慮だ。
「どれくらいダンジョンをもぐってきたのですか?」
とルシオラに聞かれて困る。
正直に答えるにしろ、「自宅のダンジョン」は言いにくい。
一種類だけというのもがっかりされたりしないだろうか?
「覚えてないです」
「数えきれないほどの修羅場をくぐってきたんですね」
すごい、カッコいいと言われてしまった。
違うんだ、単に本当のことを言うのが恥ずかしいだけなんだ、とは否定しづらい空気になっている。
「当然だ。アマテルは格が違うからな」
なぜかクーがどや顔をした。
いまはともかく、小さいころよく強引に連れ回された記憶があるんだけど?
ここで言うことじゃないので沈黙を守る。
「わ、わたしたちはどうすればもっと強くなれると思いますか?」
ルシオラがおそるおそる聞いてきたけど困ってしまった。
俺には他人を助言できるほどの能力がないと思う。
彼女たちは真剣なんだから、こっちもかっこつけず正直に応えよう。
「俺にコーチとしての能力があるのか怪しいです。期待に沿えなくてごめんなさい」
「いえいえ! 謝っていただくことはありません」
「ずうずうしいお願いをしてしまって、こちらこそ申し訳ありません」
俺が頭を下げると、ふたりもあわてて謝ってくる。
悪い人たちじゃあなさそうだな。
「アマテルに頭を下げさせるとは……」
クーがイラっとした声を出す。
「お前はけっこう得意だろ。俺のかわりに助言してくれないか?」
クーには俺もお世話になったことがあるので、自分でやるよりは信頼できる。
ルシオラたちの期待の視線を向けられた彼女は、大きく舌打ちをした。
「アマテルの頼みだからやってやろう。まずは基礎からしてお前たちはなっていない。工夫や技術など、圧倒的な力の前では何の役にも立たない」
だからまずは基礎をもっと向上させろ、とクーは言い放つ。
「た、たしかにわたしたちは足りないものだらけですよね。ありがとうございます」
それでいいのかと思ったけど、本人たちは納得できたようだ。
こうして初めてのコラボ配信は終わりを迎える。
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