第76話「ルシオラとダンジョン配信」

「本日は来ていただきましてありがとうございます」


「ありがとうございます」

 

 ルシオラと親友の撮影係さんが緊張した面持ちで、ぺこっと頭を下げてくる。

 当たり前だけどまだ撮影ははじまっていない。


「こちらこそよろしくお願いします」


 俺も頭を下げ返す。

 見た感じ年齢は俺と同じくらいか、すこし上の大学生くらいだと思う。


 こっちは顔を隠しているから、彼女たちにはわかんないんだろうね。

 あと俺のすぐ隣でふたりをけん制するようなオーラを出してるクーのせいかも。

 

「クー、抑えられないなら帰ってくれ」


「……」


 クーからオーラが消える。

 よっぽど帰りたくないのか。

 

「そちらの方もお久しぶりです」


 とルシオラが話しかけるけど、クーは小さくうなずいただけ。

 無視しなかっただけまだマシだ。


「こいつのことはスルーしてくれていいです」


 いちいち気にしてたら彼女たちの身がもたないだろうから。


「は、はぁ」


 と言いつつクーをチラチラ見る。

 彼女たちからすればツッコミどころはいろいろとあるんだろうね。


 俺とはどういう関係なんだとか、聞かないでいてくれると助かるなあ。


「今日はどこのダンジョンに行くんですか?」


 とたずねる。


「この町にあるダンジョンです。アマテルさんからすれば物足りないかと思いますけど……」


 とルシオラが遠慮がちに言った。


「いえ、大丈夫です。知らないダンジョンに来てみたかったですから」


 これはまぎれもなく本心である。

 いつまでも自宅のダンジョンしか知らないままでいたくないと思うからだ。


「今日は俺も戦うってことでいいんでしょうか?」


「え、戦っていただけるのですか?」

 

 確認したらどういうわけか、とてもびっくりされた。

 俺といっしょに戦うつもりで招待してくれたんじゃないのかな?


「クーは待機な」


 と小声で釘を刺しておく。

 彼女だと普通に戦うだけで他人に公開できない映像になりかねない。


「大丈夫だと思うけど、もしもやまとが危なくなったら参戦する。絶対」


 とクーは最後の一言を力強く言う。

 ダメだと言っても拒否されそうな意志の強さを感じる。


「わかった。そのときは助けてくれ」


「うん」


 一転してうれしそうに微笑んだので大丈夫だろう。


「では入りましょうか」


 と話しかけるとルシオラはこくりとうなずく。

 あとからついてくる撮影係の人が配信準備をはじめていた。


 ダンジョン内部は思っていたよりも何もない。


 へー、いきなりモンスターが出てこないダンジョンってあるんだ?

 興味深いのできょろきょろと見回してしまう。


 落とし穴とか落石やマグマの罠とかもなさそうだね。

 ダンジョンのタイプってやっぱり一種類じゃないんだなぁ。


 他人の配信を見ていて何となく思ってはいたんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る