第45話「自宅ダンジョンをショートカットで」

 クーとエリの力で何事もなく五階までやってくる。

 ここにいるのはヒュドラ(多頭竜とも呼ばれるらしい)のヒューくんだ。


「やあ、ヒューくん。久しぶり」


「シャーシャー」


 俺があいさつをすると、いっせいに首をもたげて舌と声を出す。

 威嚇されてるみたいだけど、これが彼のあいさつだ。


「え、もうちょっと会いに来い? 難しいんだよね。ごめんね」


 たくさんの頭を支える太い首の部分を撫でると喜んでもらえる。

 ひんやりしてる爬虫類ボディって感じ。

 

「わたしとのスキンシップは?」


「わたしもお願いします」


 クーとエリがなぜかいきなり要求してくる。

 まさかと思うけど、ヒューくんに対抗意識を燃やしたわけじゃないよね?

 

「ふたりとはいつでもできるから後回し」

 

 ときっぱり伝える。


 ヒューくんはナワバリやらしがらみやらがあるらしく、この場所から簡単には動けないらしいんだよね。


「くっ」


「おあずけですか」


 ふたりは何やら悔しそうにしてるけど、物分かりいいところはけっこう好きだ。


 ヒューくんと別れたあとはエリに魔法で運んでもらって、六階から九階までをスキップして十階に到着する。


 そこの奥にいるのはケルベロスのケーくん。

 立ち上がったときの背は俺と変わらないくらいのサイズで、頭が三つある犬だ。


 たしかファリとも仲いいんじゃなかったかな?


「ケーくん、久しぶり」


 頭を差し出してきたので順番に撫でていく。

 けっこうごわごわしているけど、そういう生き物なんだろう。


「もっと会いに来い? ヒューくんと同じことを言うなぁ……」


 ごめんねと言ってしばらく撫でた。


「じゃあそろそろ行くね」


 ケーくんに別れを告げると、立ち上がって通せんぼをされてしまう。


「くーん」


 寂しそうな声に罪悪感がチクッとする。


「は?」


 クーがひと睨みをしたことで、ケーくんはあわてて道を譲った。


「いや、クー……」


 助かったのは事実だけど、名残惜しむケーくんに圧力をかけるのはちょっと。


「やまとの邪魔するなら排除」


 クーは不満そうに言い返す。


「そうですね。また会えるのにワガママはよくないです」


 エリも彼女に賛成する。

 ふたりに言われたせいか、ケーくんは気の毒なくらいに体を縮めていた。


「反省したみたいだから許してあげて」


「……やまとが言うなら」


「やまとが優しくてよかったですね」


 取りなしに成功したのでひと安心だ。

 十一階に下りたタイミングで、


「彼らが外に出るのはよくないにせよ、一階までは来れないのかな」


 クーとエリに相談してみる。

 一階まで来れるようになれば会う機会は増えやせると思うんだ。


「やまとが望むなら、手配はするけど」


 とクー。

 手配って何だろう?


「やまととわたしたちの許可があるときのみ、一階に来てもよいという特殊ルールを設定する方向なら、可能かと思います」


 と具体的な言及をしてくれたのはエリだ。

 こっちのほうがわかりやすいな。


「まあ自由に行き来したらまずいっぽいし、エリの言うルールを設定する方向でお願いしてもいい?」


 実行するのはエリだろうから彼女に頼む。


「ええ、それがやまとの望みなら」


 エリが快諾してくれたので希望は持てるね。


「次は二十階のケンちゃんかな」


 と俺はつぶやく。 


 

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