第36話「否定も肯定もしない」
放課後、自宅に帰るとクーが開口一番。
「また女の匂いがする。最近同じやつばかり?」
なんて犬みたいなことを言う。
「そうだけど」
俺と交流がある女子なんて、甲斐谷さんたちくらいしかいないんだから当然だ。
クーとエリは身内枠なのでノーカウントとする。
「むぅ……わたしもがっこうに行くべきか」
なんてクーが言い出す。
「絶対だめ。禁止」
こいつが学校に来たら何が起こるかわかんない。
ガチな意味で。
「むぅうう」
納得いかないとばかりにうなって抗議してくる。
髪の毛をなでると機嫌はよくなるから単純でいい。
おそらくクーにしか該当しない作戦だと思うけど。
「やまと、髪をやさしく撫でたらわたしの機嫌をとれると思ってる?」
クーがじーっと見つめてくる。
おおっと、これはやばい。
でも、彼女にヘタなごまかしは通用しない。
「うん、思ってた」
すなおに認めるのが一番マシだろう。
「ならもっとやさしくする。そうすればわたしはちょろい女になる」
クーは目を閉じて追加を要求してきた。
「こういうところは可愛いんだよな」
断る理由もないので撫でていると、エリが顔を出す。
「クー様が可愛いのはやまとにだけですけどね」
と言うが、そんなことをクー自身に聞こえるように言うからバチバチがはじまるのでは?
と思ったりする。
エリのことだからわざとかもしれないなぁ。
「そんなのは当然。やまと以外に忖度する価値なし」
クーは真顔で言い切った。
「いやー……きっぱり断言されるとツッコム気力をなくすな」
俺は呆れて頭をふる。
「さすがやまと。わたしの理解者」
否定も肯定もしない。
ときどきエリのほうがわかってるんじゃないか、という気もするんだけどね。
「おやつ食べましょう?」
「今日は何かな?」
クーのお誘いに定型的に問いかける。
聞かないとわからないのは故意だろうから。
「今日はザッハトルテよ」
「え!? やった!」
好きなお菓子だったので思わず歓声をあげる。
「ありがとう、クー」
「どういたしまして」
クーは満面の笑みで応じた。
俺は制服から着替えて彼女とふたりでザッハトルテを存分に味わう。
「んん-、最高」
「ふふふ」
至福の時間をクーに笑われるが、彼女の満足の発露だから気にしない。
食べ終わったところで、スマホを操作してみるとメッセージがたまっていた。
だいたいが『ルシオラ』のファンたちからで、彼女を助けたことへのお礼だった。
律儀な人たちだよね。
それだけ『ルシオラ』が多くの人たちから愛されているって証拠なのかも。
とうらやましく思っていたら、その『ルシオラ』本人からもメッセージが届いていた。
『助けていただいたのに恐縮なのですが、モンスター異常発生の原因について、なにかご存じではないでしょうか?』
という文面である。
要約するなら国家機関に報告をしなきゃいけない。
彼女がやってもいいのだが、すでに『アマテル』が助けたことは配信のおかげでみんなに知られている。
「俺がやらなきゃいけないやつなのか」
まあ異常の原因を調べたいってのはわかるけど。
「あのなんだっけ? へんてこなモンスター。クーが倒したやつ、何か残ってる?」
と俺は彼女に問いかける。
「うん。根っこと葉っぱの一部を拾って無害化しておいた」
彼女はうなずくと何もないところから取り出して見せる。
そういうスキルを持っていると俺は知っているので驚くに値しない。
「こいつを渡せばいいのかな」
「がたがた抜かすなら、組織を壊せばいい」
「それはやめて」
クーの不穏な提案を却下する。
「えー」
不満そうな声をあげられるけど、『ルシオラ』は国家機関と言っていた。
俺としては国家権力にケンカを売るのはごめんである。
クーならケンカを売っても平気そうだからこわい。
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