第35話「なんでか全然わからないけど」

 三人は他愛もない話で盛り上がってて、俺はうなずいているだけ。


 共通の話題を見つけて女子を楽しませるなんて、とてもできない陰キャには気楽でありがたい展開だ。


「不死川くんは? 最近楽しかったことってある?」


 と思っていたら、気を遣われたのか甲斐谷さんに質問されてしまう。

 彼女の優しさは俺にとってはマイナスに働く。


 とは言え、他人の善意に泥をかぶせるなんていやだ。

 なにかいいアイデアはないかなと必死に考える。


「えっと、最近、ダンジョン配信をちょっと見るようになって」


 盛り上がってる同級生が何人かいるので、不自然じゃないだろうと思って口にする。


「えええ……」


 楠田さんがなぜかすっとんきょうな声を出す。


「大丈夫? べつにあいつらに合わせなくていいんじゃない?」


 と烏山さんが眉間にしわを寄せる。


「あ、いや、そうでもないというか」


 なんて言えばいいのか困ってしまう。

 山野たちにバカにされたから、なんて状況はとっくに終わっている。


「ルシオラって配信者がちょっと気になって」


 クーがなにやら不穏なことを言ってたし、それが当たっていたし。

 助けた本人だなんて言えないけど。


「へー」


 甲斐谷さんが珍しく抑揚のない声を出す。


「不死川くんって、もしかしてああいう女子がタイプ? ふぅん?」


 なんでか全然わからないけど、彼女のやわらかさと優しさが減少した気がする。


「いや、べつにそんなことはないけど」


 たしかに可愛いかったとは思うけど、何となく俺は苦手なタイプの子だったように感じていた。


「そうなんだ~? じゃあ興味本位かなぁ?」


 おや、なんだか優しさとあたたかさが戻った。

 どうやら正解を引いたっぽい??


「まあ、話題に出てたからね。俺、ダンジョン配信者なんて知らなかったし」


 ダンジョンの存在はさすがに知っていたが。(自宅にあるから)


「そっかー。そうだよねー」


 甲斐谷さんはなんか機嫌がよくなったのかな?

 そして楠田さんと烏山さんは、それを微笑ましそうに見ている。


 友だちが楽しそうにしていれば、理由はわからなくてもうれしいんだろうね。

 それともふたりなら理由は見当がついているとか?

 

「ダンジョン配信って、見てて面白い?」


 と甲斐谷さんに聞かれる。

 彼女からこの手の話題を出たことって、ないはず。


 たぶん俺ががんばって探し出したから付き合ってくれてるんだな。


「うーん、けっこう新鮮な気持ちで見てて楽しいかな」


 俺はいままで自宅のダンジョンしか知らなかったので、よそのダンジョンを見ていいるのはなかなかいい。


 だけど、甲斐谷さんが想定している楽しいとは違うかもしれないね。

 事情を明かせない以上、説明もできないんだけど。


「そうなんだぁ。それならあたしも見てみよっかなー」


 と甲斐谷さんが思いがけないことを言い出す。


「それならちょうどいいかも」


 と楠田さんが言ったのはもっと訳が分からないこと。

 どうしたんだろうとふしぎに思っていると、


「まあ、女子には乙女の秘密があるってことで」


 烏山さんが俺の心を読んだみたいな発言をする。

 彼女たちの事情ってなんだろう?


 聞かないほうがよさそうだ。

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