第15話「二階を配信する」

 指笛でジャターユを呼ぶと彼はすぐに来た。


「ヒッ!?」


 直後、クーとエリのふたりににらまれて、彼は大いにビビる。

 すばやく俺の背後に飛んでくるのはいつものパターンだ。


「まあふたりがいないと大変なフロアだってあるんだから」


 彼が気の毒なので、俺はふたりをなだめる。

 これはウソじゃない。


 すごいアイテムが採れる下のフロアだと、クーとエリのふたりにもビビらない奴も存在している。


「それまで待つか」


「出番はありますものね」


 とふたりは矛を収めた。

 ジャターユは安心して俺の肩の上に止まる。


「今日はどこに行く?」


「二階だよ。鉱物があるから、欲しがる人いるかなって」


「承知した」


 ジャターユが引き受けてくれたので、俺は立ち上がった。


「じゃあ行ってくるよ」


「やまとの好物をつくって待ってるね」


 とクーが微笑で見送ってくれる。


「手伝いましょうか?」


 エリが申し出るけど、


「いらない」


 彼女は冷たく断った。

 料理するのをいつもひとりでやりたがるよなぁと思いつつ、俺は部屋を出る。


 

 いちおう一階から撮影を開始した。

 と言っても前に撮ってあるので、まっすぐに下の階を目指していくだけ。


 犬と猫は俺たちを見てもまた来たのか、という様子でスルー。

 一階はとくに起伏もなく、罠もない。


 たぶんダンジョンに慣れてる人には歩きやすいだろう。

 誰も来ないから、感想を聞いたことないけど。


『この階段を降りると下の階に進める』


 とジャターユがイケボで話す。

 気の利いた鳥である。


 何の変哲もない階段を下りていくと、青い光を放つ壁と天井が目に映った。

 クーいわく、「青月鉱(ブルームーンアルク)」と呼ぶらしい。


 何もなくても青い光を常に発し続ける鉱石だ。

 夜でもまぶしいのは欠点だと思う。


 使い道って何かあるのかなぁ?

 と思いながらジャターユの実況を聞く。


 まっすぐに歩いていくと、ヘビが出てくる。


『エンシェントワームだ』


 とジャターユが告げた。

 たしか一階の犬や猫よりも強いんだっけ。


 俺には違いがよくわかんないけど、みんなそう言っている。

 この地に多いのはヘビたちだ。


 俺は平気だけど、苦手な人にとっては難関になってしまうかもしれない。

 ヘビたちを通り抜けていくと、次に出てきたのは大きなニワトリだ。


 たまにクーが料理として出してくるんだけど、肉もタマゴも美味しい。

 

『グランドコカトリスだな』


 とジャターユが名前を話す。

 こいつらとは戦いにならないから、ほかに言いようがない。


 ジャターユはよくやってくれていると思う。

 二階はまだ難易度が低いので、出てくるのは二種類だけだ。


 罠もないし広さもあるので、戦いやすいだろうな。

 自宅のダンジョンじゃなかったから、住所を教えてもよかったんだけど。


 三階へと続く階段の前に鎮座するのは全身が青い金属の巨人。

 たしかゴーレムの一種だったと思う。


『このフロアのボス、アルフ・タロースだ』


 とジャターユが話す。


 立ち上がると三メートルくらいの高さになるし、パワーもスピードもあるすごいやつだ。


 俺たちなら戦わずにどいてくれるので、動画にするにはふさわしくないかも?

 リスナーは戦いを見たいんだろうしね。


 やっぱり俺の動画がウケたのって物珍しさとアイテムが理由だろう。

 あるいはモフモフは強いとか?


 今回の動画の反響次第では、ヘビは撮影しないようにしたほうがいいかな。 

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