21話 転生人のコミュニティ


「ウタ、いいお店、紹介してくれる」


 そんな芽瑠めるの説明を受けて、パンドラで合流を果たしたのは『ウタ』さんだ。

 白金髪プラチナブロンドのレイヤーボブな彼女は、相変わらず物腰が柔らかな美少女で、どうやらあれから芽瑠とも意気投合してたらしい。


「ルンちゃんししょ……メルちゃんさんから、ルンちゃんさんが素材の売り手にお困りとお聞きしまして。私に何かお手伝いできることがあればと思い、信用に足る大商人をご紹介させていただければと」


「うむ、くるしゅうない」


 とっても尊大な言葉のお礼になってしまったので、慌てて深くふかーくお辞儀をしておく。

 そんな僕にも笑顔を絶やさず、親切に大商人のもとまで案内してくれるウタさんは陽だまりのように温かな人だ。


「お兄ちゃん、うた、見すぎ」

「え? ああ、いい人だなって」

「……ふーん」


 そんなこんなでウタさんに案内されたのは、【剣闘市オールドナイン】の一角にある小さな商店だった。

 大商人と聞いていたから、予想よりもこじんまりとした店構えだ。

 しかしその扉だけは異彩を放っていて、金と銀の美しい金属細工があしらわれ、ステントグラスがふんだんに散りばめられている。

 扉の前に吊り下げられた看板には【金海に眠る扉】と記されていた。


 いざ中に入ってみると、確かにそこは財宝の海が広がってるかのようで、雑多な物が所狭しに陳列されていた。用途不明の品から禍々しいオーラを放つ呪物まで、綺麗な輝きを放つ宝石まで目を惹かれる物があふれている。

 壁に多くの武器が掛けられていて、カウンターには薄い笑みを浮かべた店主らしきの男性が鎮座していた。


「ようこそ【金海に眠る扉】へ。やあ、ウタ様じゃないですか」

「ゴチデスさん、ごきげんよう。本日は友人が見つけた貴重な品々の査定をお願いしたく参りました」

「ウタ様のご友人……? 貴女様自ら行動を共にするなんて珍しいですな」


 ゴチデスと呼ばれたその店主は、自分のつるつるな頭を一撫でして驚く。

 よくよく見れば彼の頭上には『ゴチデスLv16』と表記されていたので、彼も転生人プレイヤーのようだ。


「こちら、メルちゃんさんとルンちゃんさんです」


 ウタさんのご紹介に預かりペコリとお辞儀をする。

 するとゴチデスさんはしばらく何かを考えるそぶりをして呟いた。


「メルさんに、ルーンさん……ですか。メルさんが姉でルーンさんが妹……? しかし、私が知っている・・・・・ルーンさんは・・・・・・姉であるはずですし・・・・・・・・……人違いですかね。改めまして、私はゴチデス。本日はどのようなお品物をお持ちでしょうか?」


 ゴチデスさんの問いに、とりあえずは【亡者】が採取してきてくれた鉱石類をいくつか提示してみる。


「手柔らかに頼む」


「……【月光呪の白石】ですと? レア度は……C!? そ、そんなばかな!」

「えっ、ルンちゃんさんが見てほしい素材ってレア度Cだったのですか!?」


 ゴチデスさんとウタさんの二人が驚愕するなか、なぜか隣にいるメルはフンスっとわずかに胸を張っていた。まるで自分の手柄を自慢するかのような態度に、ちょっとだけ微笑ましくなってしまう。


「うちのお兄ちゃん、すごい」


 芽瑠が誰にも聞こえないぐらいの声量でポソリと呟く。

 少しだけヒヤリとしつつ、慌てて質問を紡いだ。


「レア度Cとは、それほど驚くことか?」


「ええ、ええ、それはもう……今まで発見された素材の最高ランクはEですからねえ……」

「先ほどの神様と契約できるといったワールドアナウンスもそうですが、やっぱりパンドラは未知に溢れているのですね」


 ゴチデスさんは僕と石を交互に見つめ、何やら熟考しているようだった。

 そしてウタさんは朗らかに僕を見つめている。


「しかし……レア度が高いとはいえ、現時点では用途が不明ですので……ふーむむ。お一つ金貨800枚でいかがでしょうか? 銀貨でしたら2500枚です」

「あら? せっかく私がご紹介した・・・・・・・のに・・、そのようなお値段で大丈夫でしょうか?」


 ゴチデスさんが値段を言った瞬間、ウタさんはにこやかな笑顔をスンッと消して声もワントーン下がった。


「ウタ様がそこまで仰るのでしたら……金貨1000枚で、銀貨でしたら3300枚で買い取らせていただきます」


【月光呪の白石】一つで金貨1000枚。

 僕にしてみたら【亡者】にお願いするだけで、サクサク手に入る素材だからとても喜ばしい金額だ。

 しかし、ウタさんやメルの表情を見ると、提示された金額にやや納得がいってない様子だった。


「もしそれ以上の価値を見込めましたら、次のお取引では今回の分も上乗せで買い取らせていただきます」


「ゴチデスさんは商売上手ですね。そこも信用できるところではありますけれど」

「そっと、次の取り引きも、確約? 独占?」


「いかがなさいますか? ルンちゃんさん。ゴチデスさんの伝手があれば、他の商人にお譲りするより、【月光呪の白石】の真価が確実で、お早く判明するかと思います」


 ウタさんの問いに僕はしばらく考えてみる。

 ゴチデスさんは慎重なタイプだと思う。未発見の新しい素材だからって、すぐには喰いつかず、妥当な値段で取引きをしようとしている。

 しかも【月光呪の白石】の価値が判明した場合、次の取引きでは今回安く買い取った分を上乗せするとも約束してきたのだ。


 それはつまり、『損をしたくない。取り戻したい』といった僕の心理を刺激し、また買い取り依頼を自分の店に持ってこさせようって魂胆が見える。

 芽瑠めるの指摘する通り、独占的な取引きを望んでいるかもしれない。だけど僕にとって、今後も付き合う相手としてはこれぐらい慎重な相手がいい。


 独占取引きというのも、他の転生人プレイヤーに素材の出所がわかりづらくなるし、僕の安全な狩りにも繋がってくる。

 それでいて手広く販路やら繋がりを持ってるゴチデスさんなら、任せていいのではないだろうか?


「取引きは金貨を所望する。石の数は……今回3個のみにしよう」


 僕が『まだまだたくさん持ってるかもよ? 今後の取引き次第で売りにくるかもね?』と笑みを浮かべると、ゴチデスさんは少しだけ驚きながら頷いた。


「これは参った。ご期待に添えられるよう、精進いたします! では、ごちです!」


 真価を問われるのは、何も【月光呪の白石】だけではないよ。貴方の手腕も頼りにしているよとのメッセージは確かに伝わったようだ。

 うやうやしく【月光呪の白石】を受け取ったゴチデスさんは、僕に金貨3000枚を譲渡してくれた。


 3000枚……つまりは3000円か。

 この一瞬で大きい収入を得たものだ。


 今回の取り引きで感じたのは、転生人プレイヤーを狩るよりも素材を売却した方が低いリスクで稼げる点だ。

 それに……やっぱり転生人プレイヤー同士の繋がりってものが、いかに重要かを知った。



「メルとウタよ、此度は感謝する。無論、ゴチデスも」


 この取引きは3人の転生人プレイヤーあっての物種だ。

 そんな風に感謝すると、なぜかウタさんが目を輝かせながら謎の提案をしてきた。


「でしたらルンちゃんさん……! 今度は私のお願いを聞いていだけませんか?」


「無論、にできる範疇であれば」


 なるほど、ゴチデスさんを紹介した対価を要求するのは当然だ。

 ウィンウィンな関係というものは素晴らしい。


「可愛いは、相乗効果である……!」


「ありがとうございます! では私からのプレゼントを受け取ってください! あっ、他にも色々と私にみつがせてください!」


 んん?

 ギブ&テイクではなく、ギブ&ギブ!?






 ちなみに銀貨は課金マネーのことです。

 金貨と違ってレベルアップや記憶量を増やすことはできないので、価値は低いですが、すぐに何かが欲しいという転生人プレイヤーにとっては便利な通貨です。

 銀貨もリアルマネーに換金できますが、価値は買った時の半分になります。

例 2000円で銀貨2000枚を購入し、現金化する際は1000円になります。


 また転生人プレイヤー間での取引きにおいて銀貨の価値は、金貨の供給量によって変動します。


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姫路ひめじ真央まお


キャラ名:ルーン

身分:不殺の魔王

Lv :7 

記憶:9

金貨:2010枚 → 5010枚


命値いのち:10 信仰MP:33

力 :7 色力いりょく:20

防御:7 敏捷:13


【スキル】

〈不殺の魔王Lv4〉

Lv1……不殺の魔王

Lv2……転移の版図

Lv3……魔王軍

Lv4……神々を欺く者


技術パッシブ

〈魔を統べる者Lv6〉

Lv6……【契約・支配】状態でないLv60以下のモンスターに命令を下せる。Lv10以下のモンスターにはMPを消費しない。

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