19話 白竜の眷属


「今夜もいい月夜であるな……」


 ゲーム内の時間が夜になれば、それは僕にとって魔王としての活動時間にシフトする。つまり、『白き千剣の大葬原』にひそむ仲間たちに呼びかけ、大切なお金稼ぎを始める。


「さあみなのもの、集まるがよい」


 草々の影に隠れながら【亡者】たちと『会話』を始める。


「貴様らはなぜこの地に縛られているのだ?」


月樹神、言ったオォォォォォォ

我ら神族の巨体ボォォォォオティターンヴォオオ地に倒れヴォヴォ死に伏した時ウゴォォォ


右目は太陽をヴォヴボォォオ左目は月にウゴォォォヴォ呼吸は風雲ヴォヴウゴォォ声は雷にボォボオオオ毛髪は草木にヴォ~ヴォアア血液は海となったガァァァヴォッ


欲深き人間グォォヴグウ黄金女神にヌゴォァァたぶらかされた人間グウォォォオヴ


今こそウヴォォォ人間も等しくボォォォヴヴォ世界へのアァァ~献上を命ずるボォグォォオ


月樹神オォォ人間の死体からヌゴォォァァア植物生みだすグオオオオ


 なるほど……。

【月樹神アルテミス】とやらが元々この地の農民に信仰されていて、多産をもたらす地母神だったらしい。子供の守り神ですらあったと。

 それが金と欲望にまみれ、争うようになった人間に嫌気がさして【亡者】にしてしまったと……そして亡者はこの白い大葬原だいそうげんの養分になり続けているわけだ。


「【月樹神アルテミス】なる者は、今どこにいるのだ?」


知らないヴォォォヌォ

白竜の眷属アァァァァ何か知ってるグゥゥォオォォ


 白竜の眷属……【剣闘市オールドナイン】をぐるりと囲む湖にたゆたう巨大な白蛇か。白竜ミスライールとやらの眷属だったっけ。

 ふむふむ、面白い。


「【月樹神アルテミス】に【白竜ミスライール】か」


 この地にかつて何が起きたのか、その辺をより深く知っていけば色々な魔物と連携して転生人プレイヤーを効率よく狩れるはず。

 そんな風に【亡者】たちから『会話』で情報収集をしていれば、『採集』を頼んでおいたグループが戻ってくる。


「さて、今回の『採集』結果は……」


:【亡者】から【月光呪の白石】×12、【血錆びた戦士の魂】×2、【白紙の狂典】×1を譲渡されました:


「みな大儀であった。ふむふむ……前回とは採れた物が異なっているか」


 これは頼んだ魔物によって取って来る素材が違うのかもしれない? 同じエリアに生息する魔物でも、その種族が違えば採取できる範囲も変わるし、着眼点も異なるはずだ。

 僕は叫び声が響く・・・・・・闇夜の中、もっともっと他の魔物と出会いたいと思った。


「ぎゃあああ!? また【亡者】が地中から!?」

「こいつら! 次々と出てきやがる!」

冠位種ネームドの噂は本当だった!?」


 あらら。

 近くの転生人プレイヤーたちは、僕とは正反対で『二度と魔物と会いたくない』と思っているのかもしれない。

 

「よし……この辺りはもう十分よな。あんまり派手にやりすぎると、いつかのように尻尾を掴まれそうなのである」


 何より【亡者】第三小隊と第八小隊が帰還していない。

 もしかしたら手ごわい転生人プレイヤーが出張ってきてるのかもしれない。

 だから僕は金貨700枚弱を稼ぎ終わったところで、【白竜ミスライール】の眷属とやらに会いにいくことにした。





【白竜ミスライール】の眷属、【白波の監視蛇かんししゃ】はLv47だ。

 つまり【剣闘市オールドナイン】周辺のモンスターの中では、圧倒的にバランスブレイカーだと思う。

 キラさんとの逃走劇の際はお世話になったというのもあり、すっかり危機感は薄れていたけど、餌食になる転生人プレイヤーは稀にいるらしい。


 湖を泳ぐ【白波の監視蛇かんししゃ】が目に入る。星明かりが湖面に映り、まるで地上に星空が咲いてるかのような光景はいつみても綺麗だなって思う。

 けれど今回は、感嘆の吐息を漏らすだけでは終わらなかった。


 僕は辺りをチラチラと見回し、転生人プレイヤーの姿が見当たらないのを確認する。それから念のために【神々を欺く者】で存在感を薄めて、キャラ名も非表示にする。

 あとは【魔を統べる者】で【白波の監視蛇かんししゃ】に『呼ぶ』を発動した。



つどえ——」


 巨大な水蛇は音もなく橋の真下まで近づき、その太い鎌首をもちあげる。

 

「綺麗な鱗であるな……」


 間近で見ると【白波の監視蛇かんししゃ】の鱗は銀色に艶めき、そっと触ってみるとツルリとしていた。


「白竜の眷属らよ、我が声に応じよ」


 毎度毎度ほんとに偉そうな発言になってしまうので、羞恥心にフタをするのに必死だ。可愛いは我慢の連続だ。


御意にシュウウ魔の王よシュウウ


「【月樹神アルテミス】について、何か知っているか?」


我らの神シュゥゥウ白竜ミスライールの友シュウウウウン


「では【白竜ミスライール】はどこにいるのだ?」


ついてくるシュ~シュ~?」


 わあ、なんだか乗れそうなので【魔を統べる者】で『乗る』を選択したら、首に乗せてもらえた。正確にはしがみつくような形になる。

 湖の中に入る瞬間、【白波の監視蛇かんししゃ】がシュ~っと呟くと僕の体がぼんやりと青白く光った。


:【白蛇の加護】を得ました:

:20分間、水中にいても命値HPの減少が無効化されます:


 ふむふむ、普通は水中だと息が吸えなくなって命値HPが減少してゆくと。

 これはかなり強い転生人プレイヤーでも、水中にさえ引きずりこめば楽勝なんじゃないかな?


 それにしても白蛇は可愛いなあ。

 目が宝石みたいにクリックリしてて綺麗だった。


ありがブクブッどどどうブクブクッ!?」


どういたしましてシュゥゥゥゥン


 こうして僕の隠された水底都市の探索が始まった。

 うん、ワクワクが止まらない。



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