『グレート・ダーク・マウス』

やましん(テンパー)

『グレート・ダーク・マウス』 上

 

 『これは、ジョーク的なフィクションです。』    





 レナ・バウムは、オリンパス山のダイフク第一天文台に向かっていた。


 地球人類が火星に設置した最初の天文台である。


 資金は、大部分をマツムラ・コーポレーションが提供したとされる。


 マツムラ・コーポレーションは、本社はトウキョウだが、タルレジャ王国には、別法人の巨大企業があり、軍事関連や、宇宙関連は、こちらがメインである。


 核戦争後、政治的には、丸裸のトウキョウは無力になったが、全滅はまぬかれていた。


 それは、ひとえに、マツムラ・コーポレーションの力によるものだった。



 ダイフク天文台は、奇人科学者、ランシン博士が取り仕切っている。


 ただし天文台長は、物理学者で、会計学博士で、有能なビジネスマンでもある、マサリネン博士が引き受けている。


 天文台の運営に関するややこしいことは、マサリネン博士がすべてこなしている。


 そのかわり、観測や研究は、ランシン博士が中心で、マサリネン博士は、分かっていても、めったに口を出さない。


 ランシン博士は、確かに天才だが、人付き合いは下手くそで、極めて、やな人物と見られている。ほとんど、本当のことは話さないらしい。


 地球政府よりは、むしろマツムラ・コーポレーションや、タルレジャ王国に近いとも言われる。


 レナ・バウムは、ジャーナリストで、かつては天文学も学んだが、恋人の見習い宇宙飛行士、パシカルが、月基地での墜落事故で亡くなってからは、その関連からは手を引いていた。やましんとは違って、メカにも強い。


 今回は、編集長命令による、嫌々な取材だった。


 ランシン博士が、おかしな研究をしているらしいので、話を聞いてこいとのことだ。


 地球政府がなにを考えているのかは、まだ、良く分からない。


 なにかを隠しているには違いなかったが。


 

    😱😱😱😱😱😱😱😱😱


 

 ランシン博士は、一言もしゃべらない。


 しかし、幸いなことに、レナ・バウムは、天文台から、追い出されなかった。


 『追い出されなかったのは、あなたが2人目ですね。』


 マサリネン博士が言った。


 『1人目は、わたくし。とにかく、あの人に付いて回ることです。あなたは、もしかしたら、彼に気に入られたかも。』


 マサリネン博士が、ちょっとお化粧の強い巨大な目で、ウィンクした。


 『あなたは、なにをご存じですか?』


 『なにも。知らないことにしています。どうせ、ろくなことではない。もう、年だしね。しかし、あなたは違う。あなたは、真実を知り、しかるべく、振る舞うべきです。』


 『この人は、たぶん、真実を知っているのだろう。』


 レナ・バウムは、そう、思ったのである。


 

   😉😉😉😉😉😉😉😉


  

 地球政府大統領、パンタクレフは、地球の2ヶ所に、地下大シェルターを建設していた。


 それでも、収容できる人類は、全人口の10%にも満たない。


 60歳以上は、例外を除いて、犠牲になってもらうしかないと、考えていた。


 タルレジャ王国は、女王が勝手にすれば良い。


 自分は、シェルターに入るつもりはない。


 何が起こるのか、見届ける責任があるからだ。



   😔😔😔😔😔😔😔😫


 

 レナ・バウムは、天文台の中枢部に入り込んだ。


 『ぎみは、地球生物の絶滅ビッグファイブはしってるか?』


 博士が初めてものを言った。


 チャンスだ。


 『それは、オルドビス紀末、デボン紀末、ペルム紀末、三畳紀末、白亜紀末の大量絶滅ですか。』


 『その、原因はなにか?』


 『白亜紀末に関しては、小惑星の衝突とする説が有力ですが、あとは、さまざまな環境の大変化ともいわれたり、正直よくは分からないとか。現代は、6回目の大絶滅の最中とかも。さらに、ダークマターが絡んでるとかも。第9惑星の接近とかも言われたり。』


 『みな、好きなことを言うのだ。しかし、見たものは、数少ない。』


 『はあ? 見た人はいないでしょう。』


 『いや、いるね。言わないだけだ。タルレジャ王国の女王もそうだ。しかし、彼らは口を割らないだろう。いざとなったら、地球から逃げる。そうしてきた。しかしだ、大量絶滅は、ビッグファイブだけではない。比較的小さいものも含めると、2600万年周期との主張もあった。一方根拠のないものだとも言われた。いわゆる、メネシスは、その犯人ではないかとして一時期真面目に探されたが、見つからなかったし、その周期性自体が正しくないとされるようになった。しかし、そいつは、いずれも単なる自然の現象と仮定しての話だ。相手が、意思をもつならば、話しはまた別になる。』


 この人は、やはり、尋常ではないなあ。


 取材に値しないのではないか?


 レナ・バウムは、そう思った。


 しかし、博士は続けた。


 『これを見たまえ。』


 巨大なスクリーンに、地球が写し出された。


 博士が小さな装置をいじくると、その光景は拡大され、太陽系全体が画面に広がった。


 『これは、いわゆる、CGとかではない。』

 

 『はい? あにめ、とかですか?』


 『ばかもん。これは、実写だ。たぶん。』


 『ば、ば、く。………実写? たぶん?』


 『さよう。』


 『ばかな。だれが、どこで、写したんですか。』


 『ば、ば、ば。く、……いや、わからん。しかし、これは、この敷地からまるごと掘り出したのだ。記憶装置。再生装置。保護していたケース。いっしょにだ。地球生物の製作したものとは思えない。最近の火星地質学の知見からしたら、二億五千万年より前辺りのものである。』


 やはり、この人は、並大抵ではなさそうに思えたが、レナ・バウムは、この科学者に、ちょっと興味が湧いた。


 『しきち? つまり、ここからですか。』


 『さよう。きみは、ここがどこか、わかってるのかな。アリマ温泉ではない。』


 『いや。それは、わかっています。火星のオリンパス山です。オリンポス山とも。』


 『ふん。標高は?』


 『21230メートル。地表からは、27キロあります。』


 『そうだ。しかし、ここには、かつて、別のなにかがあった。はるかな昔だが。』


 『別のなにかがあった。って、なんですか?』


 『さあな。なんらかの施設。建物。研究所。保養所。天文台。自宅。そうしたものだ。これは、その遺物だ。データを引き出すのに苦労したが。』


 『火星人ですか?』


 『そこは、わからない。そうかもしれない。いずれ、本物だろう。地球の誰かが埋めておいたということが、無いとは言えないが。』


 『まさか?』


 『ふん。冗談だ。しかし、問題はそこではない。内容だ。こいつは、どこから撮影したか? 太陽系の外からだ。』


 『はあ?』

 

 『これは、とてつもないものだ。驚異的な解像度だ。おそらく、このテレビ画像では、きちんとは再生できていない。しかし、画面をこうして引いてみると、こうなることが判った。』


 ランシン博士は、また、手元の装置をいじった。


 すると、太陽系は、はるかな彼方に消え去り、やがて、銀河系内の恒星が現れた。


 『はあ……………』


 やはり、これは、CGみたいなものに違いない。


 レナ・バウムは、そう思ったのである。


 いくら、火星人であろうと、太陽系外から眺めるなんてことは、あり得ないだろう。


 光速をはるかに越えるような移動ができる宇宙船が必要になるし、そこから通信することなんかできないし。


 『まあ、良く見たまえ。これだ。』


 博士は、遥かなかなたにある、雲のようなものを拡大した。


 『こいつの正体は、まだ、わからない。しかし、たぶん、だいたい、太陽を2600万年周期で回っているらしい。惑星Xとか、メネシスとか、赤色矮星、褐色矮星、暗黒惑星とか、まあ、好きに呼ばれたが、しかし、こいつは、そうしたものではないだろう。拡大したらちょっとだけ、わかる。みたまえ。』


 それは、さらに、ぐんぐんと拡がった。


 『く、く、おくち!』


 『まさしく。口だよ。こいつは、2600万年ごとに、太陽系にやってきて、でかい口で、クジラのように、空間を飲み込むんだ。既知の物質とは、ちょっと違うみたいだな。飲み込まれても、すべてが消化されるわけではなさそうだが、こいつの好きそうなものだけ、吸収する。地球がすぐに食われるわけでもなさそうだ。しかし、太陽系内の物質はかなり掻き回されるとも思われる。ただし、まだ、現世人類が食われたことはないがな。』


 『宇宙をさ迷う生き物? ないない。帰ります。ありがとうございました。』


 『もちろん、かまわんよ。しかし、こいつは、腹が減ったらしいでな。ぼくの観測では、周期を破って、かなり接近してきている。ショートカットしたみたいだ。5年後には、太陽系に到達しそうだ。おそらく、周囲には、餌があまりなくなったのだろう。きみは、宇宙クジラを知ってるかな。』


 『むかし、読みました。「ジョナサンと宇宙クジラ」。』


 『やましんも書いている。そいつは、プロキシマケンタウリあたりに住む、超巨大知的生命体だ。しかし、それらは、あくまで、フィクションだ。こいつは、違う。宇宙を食い荒らす化け物だ。』


 そっちのほうが、よほど、オカルトだろう。


 と、レナ・バウムは思う。


 『火星に海があったのは、35億年より以前です。もし、2歩譲って、あり得ない時期に、火星文明があったとしたら、タルレジャ王国の神話を信じることになりますね。』


 『信じる必要なはい。こいつが、証明している。火星文明である必要もない。これが、証拠だからだ。その起源はわからん。しかし、地球の産物ではない。地球人類には、作れないんだ。こいつの記憶領域や、電源は、たぶん、超極少ブラックホールみたいなものだ。おそらく、ほぼ無限大だと思われる。周辺の部品も、良くはわからない。しかし、たぶん、中を調べたら分かるだろう。どうかね。壊してみるか? やってみてよいぞ。いくらでも分解してみたまえ。できればだがな。これには、継ぎ目が全くない。ネジも蓋も底もない。溶接もしてない。そもそもAC電源端子もない。どうやって、作ったのか。さっぱり判らない。三次元の体系では、作れないんだ。しかし、機器同士の接続はできていて、現に動作しているんだから、たぶん、地球人類にまったく未知ではないだろうが、なぜ、動くんだ? どうしても開けられなかったから、いろいろ、火星にある医療機器も使って透かしてみる方法をやってみて、なんとか、少しだけ中身が判った、程度だがな。しかし、こうして現に証拠があるんだから、話は早いだろ。』



 レナ・バウムは、一晩、そいつと闘い、そうして、破れ去った。


 

    😨😨😨😨😨😨😨😨



 『博士、これは、確かに、判らないです。しかし、だからといって、あなたの話に信憑性が出るわけではないです。火星にある、未知を見つけただけです。』


 『それだけでも、大したもんだがな。まあ、きみが初めて知ったわけではない。地球大統領は、すでに知っている。』


 『なんと。』


 『しかし、地球政府は、情報公開をしない。だから、君を呼んだんだ。』


 『地球沈没ですか?』





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