〖英雄〗がインストールされました④
「エリカ、クロム、フィオレ……みんなに大事な話があるんだ」
その日の夜。
普段ならみんな眠っている時間に、三人を集めて話をすることにした。
決心が揺るがない今がいい。
ライラに背中を押され、俺は彼女たちに話す。
「聞いてくれるか?」
三人は頷いた。
そうして語り出すのは、自分自身の物語。
英雄譚とは未だ呼べない話を、少しだけ恥ずかしく、ちょっぴり自慢げに語った。
そして最後に、これからすべきことも。
「俺の力は、ライラと一緒に星食いを倒すために生まれた。星食いを倒さないと、この世界は呑まれて消えてしまう。そうならないために、みんなの力を……いや、三人の身体を使わせてほしいんだ」
「それって、つまり……」
「そういうことするってことか?」
「わ、私がレオルスさんと……」
説明の意味を理解して、三人とも顔を真っ赤にする。
そういう反応になるのも無理はない。
むしろ、ドン引きされなかっただけ気が楽だ。
「こんなことを頼むなんて、男として最低だとはわかってる。それでも俺は――」
「別にオレは全然いいけどな」
「クロム!?」
「はわわ」
あっけらかんとそう言ったクロムにエリカは驚き、フィオレはあわあわする。
俺もクロムの反応には驚いて、目を丸くする。
「だってオレ、レオ兄のこと大好きだし! 前々からそういうことしたくて機を伺ってたしな!」
「そ、そういえば……そうだったな」
クロムには風呂場で襲われかけたことがあった。
あの時はエリカが来てくれた事なきを得たけど、確かのあの時はクロムから誘惑してきて。
「エリカとフィオレだってそうだろ? オレの邪魔してたのって、抜け駆けされたくないからじゃん?」
「そ、そんなことありませんよ?」
「へぇー、じゃあオレだけしてもらおっと。いいよな? レオ兄」
「じゃ、じゃあ私も……その後でもいいので……」
「フィオレまで!?」
内気なフィオレも一歩を踏み出し、残るはエリカだけ、みたいな状況になる。
俺が説得すべきなのに、なぜか三人だけで話がどんどん進む。
当事者なのに、まるで俺が蚊帳の外だ。
「オレとフィオレは決定だな! エリカは嫌みたいだし、見学でもしてる?」
「……い、嫌です」
エリカは顔を真っ赤にしながら、挑発するクロムに言う。
「私のほうが……レオルスさんが大好きなんですよ」
「オレだって負けねー!」
「わ、私も、レオルスさんなら……」
三人の決意が固まった。
俺の隣に立つライラが、ニヤケ顔で俺に言う。
「これはまいったな。三人同時に相手をしてやらんといけないぞ?」
「そ、そうみたいだな。でも、彼女たちの覚悟には応えたい」
「よく言った! それでこそ未来の英雄、それでこそ男だ! 皆も安心しておれ。私との予行演習のおかげで、レオルスも女の身体は熟知しておるからな!」
「「「予行演習!?」」」
三人の視線がぐいっと集まり、気づけば両手と身体に引っ付かれていた。
「ど、どういうことですか?」
「オレたちが最初じゃないのかよ!」
「わ、私たちじゃ不満なんですか?」
「はっはっはっ! 愉快だなー!」
三人に詰め寄られる俺を見て、ライラ一人だけ豪快に笑っていた。
戸惑う俺を見て楽しんでいる。
本当にいい性格をしているよ、まったく。
でも、そういう部分に、俺は惹かれているのかもしれない。
◇◇◇
翌日の朝。
俺は組合の支部を訪ね、ラクテルさんに一つだけお願いをした。
その内容は、一日だけ某ダンジョンをライブラの貸し切りにしてほしいということ。
理由もすでに伝えてある。
「許可を頂き感謝します」
「いえ、こちらこそ貴重な情報提供に感謝しかありません。レオルス様のおっしゃる敵がいるなら、無策に人員を増やすのは逆効果でしょう。ただし一日が限度です」
「わかっています。もし俺たちが戻らなければ……その時はお願いします」
「その心配はしておりません。あなたならきっとやり遂げる。我々ギルド一同、皆様のお帰りを心待ちにしております」
ラクテルさんに頭を下げられ、俺は組合を出た。
向かうはカインツたちと戦った因縁深きダンジョンだ。
ライラ曰く、このダンジョンの最深部に気配がある。
星食いの本体は、ダンジョン内の何かを依代にしているらしい。
おそらく依代に選んだのは……。
「ボスだな」
「だろうな。ボスモンスターが一番器として有用だ。私が星食いでもそうする」
「急ごう。今日中にボスのところまでたどり着く。かなりハードだけど、今の俺たちならいける」
自分を鼓舞するように言い聞かせ、共に戦う仲間たちに視線を送る。
「さぁ、準備はいいか?」
「はい!」
「任せとけ!」
「が、頑張ります」
「ではゆくぞお前さん! この世界を救う冒険の始まりだ!」
◇◇◇
ダンジョンの構造はシンプル。
階層に別れた縦型で、最深部十五階層付近と推測される。
本来は念入りにマッピングし、慎重に進むのがセオリーだけど、俺たちには時間がない。
目的はダンジョン攻略というより、ボスモンスターを依代にしている星食いの討伐だ。
余計な寄り道は一切しない。
戦闘も可能な限り回避し、気配を辿って最短ルートで最深部へと駆け抜ける。
「お前さん気を付けろ。近づくごとに星食いの分身体が増える。戦うほどに学習されるぞ」
「ああ、可能な限り一瞬で、すでに見せたスキルで戦うよ」
星食い本体から漏れ出た分身体。
奴らに本体ほどの学習能力はない。
それでも戦えば慣れられ、徐々に攻略されてしまう。
完全に学習される前に、本体を叩くしかない。
急げ、走れ、突き進め。
ひたすらにゴールを目指して。
そしてダンジョン探索開始から十五時間弱。
おそらく史上最短で、ダンジョン最深部に俺たちは到達した。
「あ、あれがボスモンスター」
「オレらも初めてみる」
「よ、鎧の騎士みたい、ですね」
見た目はフィオレの言う通り、鎧をまとった騎士の姿をしている。
しかし大きさは成人男性の五倍はある。
何より、全身から漏れ出る黒いモヤが、ただのボスモンスターではないことを物語っていた。
ライラが俺に言う。
「予想通りみたいだな」
「ああ」
このボスモンスターこそ、星食いの本体。
分身体を量産し、ダンジョンすら落下させる元凶で違いない。
まだ動いていないのに、この威圧感。
恐ろしい。
背筋が凍る。
世界を呑みこむ存在……果たして俺は勝てるのか。
「レオルスさん」
「頼んだぜ! オレたちはいつでもいいぜ!」
「す、少しでもお役に立てるようにします」
「――ありがとう」
情けない俺の背中を、皆が教えてくれる。
勇気を貰い、俺は剣を抜く。
それでもまだ身体は震えていた。
最後の一押しは、彼女の役目だ。
「行ってこい! 未来の英雄!」
「ああ!」
「無事勝利したら私たちが夜の特別サービスをしてやるぞ!」
「ちょっ、今そういうこと言わないで」
彼女らしいな。
緊張による震えも、今の一言で緩和した。
もう大丈夫、俺は戦える。
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