〖秘薬〗がインストールされました①
後日、支部長であるラクテルさんに報告をした。
支部に向かうと丁重に扱われ、俺とライラは応接室のような場所に案内された。
「なるほど……そのような状況になっていたのですね」
「はい。すみませんが、盗賊のほうは逃がしてしまいました」
「いえ、顔と能力が判明しただけでも十分です。今後は警戒により力を注げます。他の冒険者も注意するでしょうから、捕縛も近いでしょう」
「どうだろうな。あの女は狡猾だ。すぐに尻尾は見せないと思うぞ?」
ライラは相変わらず不遜な態度でラクテルさんに話しかける。
出された紅茶を一瞬で飲み干し、お変わりまで要求している太々しさだ。
そのうち怒られても知らないぞ。
「それに、あの女の実力も相当でした。短時間で冒険者が五十人近くやられていましたから」
「そうですね。非常に危険な相手です。人狼のスキルをもつ盗賊……次に発見された際は、上位ギルドの協力を仰ぎましょう」
「それがいいと思います」
上位ギルドの主力メンバーなら、あの人狼女にも対抗できるだろう。
言い方は悪いけど、あのダンジョンで倒れていたのは下位のギルドのメンバーばかりだった。
もしかするとあの女も、上位ギルドが参加していないダンジョンだけを狙っていたのかもしれないな。
「その際は、ぜひともレオルス様にもご協力いただきたい」
「もちろんです。取り逃がしたのは俺の責任でもありますから」
「ご謙遜を。御無事に戻られただけでも素晴らしいことです。レオルス様の情報が、これからの冒険者たちを支えるでしょう」
「大袈裟ですよ」
ラクテルさんは首を横に振る。
褒めてくれるのは嬉しいけど、取り逃がしたことは事実だから忍びない。
そんな俺に彼は続ける。
「此度の一件を経て、レオルス様が率いるギルドライブラの順位が変更になりました。一〇八位から飛んで六九位です。おめでとうございます」
「い、いきなりそんなに? まだ何もしていませんよ?」
さすがに驚いて聞き返す。
「いえいえ、設立前にダンジョンを一つ攻略し、今回も盗賊の撃退に貢献頂きました。加えてレオルス様のギルドは、すでにホームも持たれているとか」
「そうですけど、あれは貰い物なので」
「拠点があることも十分に加点対象です。確かに大きく上がりましたが、まだまだ上位には遠いでしょう。これから一層頑張って頂きたい。という期待も込めております」
「そういうことですか……だったら頑張ります」
ギルドランキング上位十位以内。
そこがまず、俺たちのギルドが掲げる目標だ。
話も終わり、ライラも退屈し始め欠伸をしていたので、そろそろ退出することにした。
「それでは失礼します。行くよ、ライラ」
「やっとか。ふぁー」
大あくびをして立ち上がる。
やれやれと首を振りながら席を立つと、ラクテルさんが呼び止める。
「ところで、今回の報告は盗賊に関することだけでしたが……他に何かありませんでしたか?」
「……」
「……」
「――いえ、何もありませんでした」
◇◇◇
組合を出てホームへと戻る。
帰り道はライラが眠いとか言い出して、仕方がなく負ぶって帰った。
戦ってないのに疲れる一日だ。
ホームに戻った俺はライラを自室のベッドに寝かして、疲れを癒すために風呂にでも入ろうかと思い、そのまま風呂場に向かった。
この屋敷は風呂も広くて綺麗だから、毎日楽しみだったりする。
何度かライラが乱入してこうようとしていたが、今は寝ているし安心して入れる。
服を脱ぎ、身体を軽く洗ってから、ざばーんと浴槽に浸かる。
「はぁ……」
温かい風呂に入るだけで、日々の疲れが解けていくようだ。
俺は気持ちよくてうとうとする。
目を瞑り夢心地に浸りながら独り言を口にする。
「このまま寝ちゃいたいなぁ……」
「そんなことしたら覚えれちゃうぞ?」
「そうだな~ ん?」
聞こえるはずのない他人の声に眼を開ける。
なぜだろう?
湯煙と一緒に、クロムの顔が見えるんだが……。
「……なんでここにいるんだ?」
「レオ兄が風呂入ってくのが見えたから」
「見えたから?」
「一緒に入ろうと思って」
なんで?
疑問が口ではなく表情に現れる。
「レオ兄全然気づいてなかったな。服脱いでいる時からいたんだぜ?」
「……まったく気づかなかった」
それだけ疲れていたのか?
いや、ライラが寝ているからって安心していたんだ。
まさか彼女以外にも伏兵がいるとは……。
「とりあえず、俺はもう出るよ」
「なんで? さっき入ったばっかじゃんか」
「一人だと思ったからな。男女が裸で風呂に入るのはよくないだろ」
「何言ってんだよ。風呂は裸で入るものじゃん」
正論に正論で返された。
確かにその通りだが、言いたいことはそれじゃない。
というか徐々に近づいてきてないか?
頑張って見ないように目を逸らしているのに。
「とにかく出るから」
「待ってくれよ! オレ、レオ兄に話があるんだ」
「そ、それなら風呂を出てからで」
「今がいい! 今じゃなきゃ嫌だ……」
クロムに手を掴まれ、逃げられなくなってしまった。
チラッと見たクロムの表情は、なんだか少し寂しそうで、いつもみたいに元気じゃない。
「……わかった。少しだけなら」
「やった! ありがとな、レオ兄!」
「ちょっ、今くっつくな!」
クロムの無邪気さは男にとって毒だ。
頼むから離れてくれ。
じゃないと理性が……耐え切れないんだよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます