〖決断〗がインストールされました⑤
「何を……言ってるんだ?」
「聞こえなかったのかよ。その結晶をこっちに渡せ。俺が貰ってやるから」
改めて聞いても、俺は疑問を返す。
「……意味がわからない」
「あん? 馬鹿な奴だなぁ。そんなもんお前が持ってても意味ねーだろ?」
カインツは呆れながら首を振る。
そのまま続けて話し出す。
「そろそろあのダンジョンに再挑戦する予定だったんだよ。その結晶があれば、テキトーにダンジョン内で時間潰して、ボスを倒して攻略したことにすればいい。楽ができて実績もつく、まさに一石二鳥じゃねーか」
「……そのために、これがほしいって?」
「そう言ってるだろ。無能は理解も遅いな。だからお前はクビなんだよ、レオルス。最後にまた役に立ててよかったな」
「……」
彼は得意げに語りながら、理解が遅い俺に苛立ちを見せる。
「いいから、とっととよこせ!」
しびれを切らしたのか、彼は右手を伸ばし、俺の手から結晶を奪おうとした。
俺は一歩下がり、彼の手を避ける。
「――! おいレオルス、何の真似だ?」
「こっちのセリフだよ。渡すわけないなじゃないか」
「は? お前……立場わかってねーのか? お前がやらかした失敗も、俺が帳消しにしてやるって言ってるんだぞ?」
「……失敗したのはカインツ、お前のほうだろう?」
俺の挑発に、カインツは眉間にしわを寄せ苛立ちを露にする。
でも、それ以上に俺も怒っていた。
生まれて初めてかもしれない。
こんなにも他人に腹を立てたのは。
カインツの自分勝手すぎる言い分に、どうしようもなく苛立ってしまった俺は、柄にもなく彼を挑発する。
「この結晶は俺が、自力でボスを倒して手に入れたものだ。お前は逃げ出したけど、俺は逃げなかった。その結果の差だ」
「……おいおい、無能が調子に乗り過ぎだぜ?」
カインツは腰の剣を抜いた。
本来、ギルドメンバー同士の私闘はご法度だ。
ダンジョン内での裏切り同様、厳しく処罰される。
「お前はもうクビになった。つまりは部外者だ。邪魔するなら容赦しねーぞ?」
「……それも、こっちのセリフだ。俺はもうこのギルドの一員じゃない。カインツ、お前の仲間でもないんだ。指図される筋合いはない!」
「――! てめぇ……」
もっとも、彼にとって俺は最初から仲間ですらなかったみたいだけど。
カインツがクズ野郎でよかった。
「泣いて謝ってもおせーからな!」
「だから――」
心置きなく、戦える。
――【剣帝】。
「こっちのセリフだよ」
「なっ!」
俺は腰の剣を遅れて抜き、カインツの攻撃に合わせた。
刃がぶつかる瞬間火花が散り、カインツの刃だけが斬り裂かれる。
動揺するカインツの脚を払い、地面に倒して切っ先をカインツの眼前に向ける。
「いつまでも、自分のほうが強いと思わないほうがいいよ」
「レオルス、お前……」
ひゅー、格好いいな!
肩からぶら下げた黒い本から、そんな声が聞こえた気がする。
本当にいい性格をしているよ。
いいや、俺も同じか。
「ありがとう、カインツ。おかげで今後のことを決められたよ」
「は……? 今後?」
「これからどうするか考えていたんだ。新しいギルドに入る……それじゃ、今までと同じだ」
俺はカインツから切っ先を離し、腰の鞘に納める。
一歩、二歩下がり、彼を解放した。
起き上がるカインツに俺は、堂々と宣言する。
「決めたよ。俺は……俺のギルドを作る!」
「――!」
すでにある組織に属しても、きっといずれ同じ結果に繋がる。
強さを、実力を認められても、ギルドのために利用されるのがオチだ。
それじゃ何も変わらない。
ライラのおかげで、俺は一人でも戦える力を得た。
内と外、全ての世界の英雄たち、その伝説の一端を行使することができる。
この力があれば、憧れていた理想の冒険者に、世界の歴史になお残すような偉大な英雄にだってなれるかもしれない。
だから俺は、この機会をチャンスだと思おう。
一歩踏み出すんだ。
新しい自分に生まれ変わるために。
「俺はギルドを、世界最強の一団にしてみせる! っていうのはどうかな?」
「は……は? そんなもん無理に――」
「完璧だ! それでこそ、私を目覚めさせた男だな!」
「――! なんだ? 誰の声だ?」
声の正体を知らないカインツは瞳をキョロキョロさせ戸惑う。
俺は笑った。
カインツの様子が面白くて、じゃない。
これから先に、自分が歩む未来に期待して。
「ここから始めよう。俺の……俺だけの英雄譚を」
拳を握り、満月に付きだす。
さぁ、俺は一体、何者になれるだろうか。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
【あとがき】
決断編はこれにて完結となります!
次回をお楽しみに!
できれば評価も頂けると嬉しいです!!
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