第40話 二人きりの下校
ロングホームルームを終えて教室を後にした。昇降口で履き物を替えてコンクリートの地面に靴裏を付ける。
体育祭は終わった。俺を縛る予定はない。久しぶりに開放感のある放課後を堪能すべく校門をくぐる。
「はーぎわらっ!」
背後から靴音が近付く。
振り向いた先に整った顔立ちがあった。フレンドリーな笑みを浮かべて眼前で足を止める。
「魚見って帰り道こっちだっけ?」
「今日は寄り道しようと思ってさー。萩原はどっか行くの?」
「ああ。行き先は決めてないけど、久しぶりの自由な放課後だから街ぶらぶらしようかと思って」
「いいね、じゃあ一緒に渋谷行こうよ。私買いたい物あるの」
「他に誰か誘うか?」
魚見が首を左右に振った。
「んにゃ、せっかくだし二人で行こ」
俺は了承して靴裏を浮かせた。前を歩く制服に続いて外の空気を突っ切る。
話題が浮かばない。
思えば、魚見と二人きりで出かけるのは初めてだ。教室内では燈香や丸太をはさんで言葉を交わすことが多かった。魚見について知ってることなんて片手で数えられる。
最近話題を得たのは不幸中の幸いだ。考えをまとめて口を開いた。
「魚見はハロウィン好きなのか?」
「祭事は大体好きだよ。みんなではしゃぐの気持ちいいじゃん。萩原は体育祭楽しくなかった?」
「楽しかったけど、あれは短距離走で二位になったからだしな」
俺が本番に向けて走り込まなかったら徒競走で二位になることも、祝賀会に参加することもなかった。あれは頑張った人が労いを兼ねてやるものだ。頑張らなかった生徒が混じっても疎外感を覚えるだけだろう。
「今までの萩原だったら絶対隅っこでドリンク飲んでたよね」
「そこはかとない悪意を感じるぞ」
「考えすぎだって。私はいいと思うよ? 喧噪の外で飲食楽しむってクールじゃん」
「意外だな。魚見は孤立する人を歯牙にもかけないタイプだと思ってた。実際燈香と付き合う前の俺なんて認識すらしてなかったよな?」
「萩原ひどーい! 私のことそんな冷血人間に見てたの? ショックだぁ」
「別に魚見を責めてるわけじゃない。下手につつかれて転がされる方がずっと辛いからな。クラスメイトの大半に嗤われた時は不登校になるかと思った」
「あーあれね。当時は萩谷一人でいること多かったし、証明してくれる友人いなかったもんね」
一年生の頃は本の虫だった。出遅れて友人を作るタイミングを逃して、休み時間を潰すための手法として読書を取った。SNSのつぶやきを眺めるよりは自分のためになるし、誰かと交わしたい話題もない。そんな俺にとっての本は学校での居場所にも等しかった。
メリットはあった。知識量は増えたし、勉強の手法や集中力の上げ方、果ては資格について学ぶ機会になった。それらは成績の向上や資格取得に役立った。半端に成果が出たから、俺はこれでいいと信じ込んでしまった。
その結果が笑い者にされた一件として表れた。友人を作っておくことが自己防衛になるなんて、人付き合いの大切さを知らなかった俺には知る由もなかった。
「ぼっちで悪かったな」
「またそっち方向に考えるー」
「そういう性根なんだから仕方ないだろ」
「燈香と付き合ってもそこら辺変わんないね」
瞳をすぼめられた。
言いたいことは分かるけど、これが今の俺なんだから仕方ない」
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