メモリアランド

ひみこ

第1話 メモリアランド



 高校二年の春。待ちに待ったゴールデンウィーク。

 俺は初めてできた、一つ年下の可愛い彼女と初めてのデートをすることになっていたのだ。

 だが、なんせ初めての彼女ということでどこに行けば喜ぶのかなんて分かるはずもなく、途方に暮れていた。そこで、俺の親友で彼女持ちの佐久間 陸に相談するために携帯をとった。


「はあ? 惚気かよ。どこに行ったっていいんじゃねえのか? まあ人混みはすごそうだけどな」

「んなこと言わずにさ、お前佐藤との付き合いなげえだろ? なんかアドバイスくれよ」

 佐藤 芽依はこいつの彼女で中学の時から付き合っている。

「何いってんだ。お前だって昔彼女居ただろうが」

「あれはそういうんじゃねえよ」

「……しょうがねえな。取って置きの場所教えてやろうか。連休でも人が少ない穴場の遊園地」

「遊園地~?」

「嫌なら自分で探せ。じゃあな」

「待て待て待て! そうじゃないんだ。俺、遊園地って行ったことがないんだよ」

「どんな人生送ってきたら遊園地に行ったことがない男子高校生なんてのが出来上がるんだ」

「頼む!陸!ダブルデートしようぜ!」

「なんでだよ! 初デートだろ? お前らだけで行ってこいよ」

「一人だと自信がねーんだよ。な、頼むよ。かっこ悪いところみせたくねーんだよ」

「今でも十分かっこ悪いと思うけどな。まあ、俺もまだゴールデンウィークどこに行くか決めてなかったけどさあ。一応芽依には聞いてみるけど、お前の彼女の方は大丈夫なのか?」

「ああ、こっちも連絡しとくから。頼むな!」



 そんなこんなでゴールデンウィークの中日。

 俺と彼女の長谷川 杏奈、陸とその彼女の佐藤 芽依の四人で、街の外れにある寂れた遊園地「メモリアランド」にやってきた。

 混んでるといけないから、とオープン前から並ぶつもりでやってきたのだけど、誰も並んでいない。

 大丈夫なのかここは。ゴールデンウィーク中だぞ。

 初対面だった杏奈と佐藤はお互いに興味もあったようで

「ダブルデートってなんか新鮮だよね」

 なんて言って初対面なのにすでに打ち解けて、仲良くなっていた。

 よしよし、出だしは好調だ。

「お前、わかってんだろうな。タイミング見計らって別行動するからな。約束だぞ」

 陸が俺の肩を抱えながら言ってきた。

「わかってるって。約束な」

 

 

 運動会のしょぼい花火みたいな音がなって、遊園地がオープンした。

 チケットを渡すスタッフは遊園地のマスコットキャラのリスのようなネズミのようなきぐるみを被っていた。気合はすごいけど、今日は結構暑いのに大変すぎるだろ。それに全然かわいくないし。

「あー! メモガーだ! かわいい! 写真撮って!」

 一応知名度はあるのか。

 遊園地の中は当然誰もいない。俺たちが一番乗りだ。


 狭い園内をぐるっと見渡す。

 まずなんか汚い。

 汚れているというか古びている。

 そして狭い。

 まだ入口付近なのにすでに遊園地の全体像が見えてしまうくらいだ。

 これ一日どころか午前中に回り終えてしまうんじゃないか。

 置いてある遊具もいちいち古い。

 ジェットコースターはスタンダードな一回転するだけのしょぼいやつ。

 今どきメリーゴーラウンドにティーカップなんていう古典的なものが揃っている。

 ゴーカートコーナーなんてのも見えた。

 そして今にも壊れそうな観覧車が奥に見える。

 だが、観覧車は動いていないようだった。人がまだいないからだろうか。


 俺は流石に不安になって陸を問い詰めた。

「おい、いくら人が少ないって行ってもこれは少なすぎやしないか。こんなんでほんとに女子が喜ぶのかよ」

「そうだな……いつもはもう少し人がいるんだが」

「誰もいねえじゃねえか!」

「早く来すぎたからじゃね? ほらあそこ、他にも客が入ってきてるし」

 陸が指差すのは俺たちがいま来た道。

 

 俺たちの次に入ってきたのは。ちょうど俺たちと同じくらいの歳の男女六人。

 派手な服装で、いわゆる陽キャの集まりという感じ。

 俺や陸のような文化系の部活に入っている陰キャとは住む世界が違う。

 幸いなことに別の学校の生徒だ。見た顔がいない。と、そう思ったのだけど一人だけよく知った顔が居た。

 

 本郷 彩は俺の幼なじみだ。

 気立てがよく、頭もいい。

 小学校の頃は毎日のようによく遊んだ。

 よくある腐れ縁というやつだ。

 中学まではなんとかお互いの家の行き来もあったし、付き合ってるんじゃないかと噂されたこともあったが、俺たちの間にはとくにそういう甘酸っぱい出来事は何もなかった。


 でも俺は当時、彩のことが好きだった。

 彩も俺のことが好きだったんじゃないかと思う。

 彩は俺よりもずいぶんと成績が良かったので、俺は彩に勉強を見てもらいながら必死に受験勉強をしたのだけど、結果は不合格。

 彩とはそれ依頼気まずくなって顔を合わせることがなくなったのだった。 


 彩と一瞬目があったのだが、お互いに気づかないふりをした。

 そんな様子を見た陸は察してくれたようで、俺の肩を軽く叩くと「わかってるって」と言ってくれた。コイツが親友で本当に良かった。


 俺たちはアトラクションを周るの前にまず中央にある半円形の広場に向かった。

 何かのショーが始まりそうで、舞台の上ではきぐるみを来たスタッフたちが機材の準備をしていた。

 っていうか園内のスタッフ全員きぐるみを着てるのか?

 無駄なところに力を入れている園だな。

「こういうショーは数時間おきに開催だから、見れるときに見とくといいんだ。せっかく今ガラガラなんだから今のうちに見ておこうぜ」

 と陸と佐藤に押し切られる形で俺たち四人はガラガラの観客席の一番うしろに座った。

 こういうショーでも見ながら時間を消費しないとすぐにやることが無くなって昼過ぎで解散なんてことになりかねない。

 途中で佐久間 陸と分かれて、あわよくば手をつなぎ、その先も、と考えている俺にとってはそれは都合が悪い。

 彩たちのグループも考えることは同じだったようで、半円形の観客席の隅っこの方に陣取っていた。俺たち両グループは微妙に距離を空けて座ったが、お互いに存在を意識せざるを得ない。

 だって、結局俺たち以外の客はまだ現れなかったから。


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